(七)二本の四翼精霊剣
◆ 四翼のまま
セトはフィオラへ向き直った。
「フィオラは、ここから少しずつ降下してくれ。俺たちはやつを叩く」
「分かりました。ですが、セトさんたちも無理はしないでください」
「無理をしないと倒せない相手だ」
「それでも、戻ることを忘れないでください」
フィオラは三人の顔を順に見た。
「無事に戻ってください」
「ああ」
「必ず戻る」
「私も、そのつもりです」
セト、シア、ネアがそれぞれ答えた。
フィオラは水の膜から離れ、風の流れを下方へそろえる。
セトも水の膜を分け、フィオラを送り出した。
淡い銀緑色の光が、ゆっくり星へ向かっていく。
フィオラは最後に一度だけ振り返った。
二人の四翼とセトの水の膜は、暗い空の中でもはっきり見える。
今度は自分が三人を追うのではなく、三人が戻ってくる場所を守る。
そう決めて、フィオラは降下のための流れへ意識を戻した。
セトは水を自分の周囲へ小さく残し、両手を空けた。
右手へシアが近づき、左手へネアが立つ。
二人の四翼は、まだ別々の色で輝いていた。
「二人とも、俺へ戻す精霊力は制限するんじゃなくて、手前でためてくれ」
「ためる?」
「セトへ流す量を、セト自身が制御するのですね」
「そうだ。剣の側の循環は二人に任せる。俺が受け取る量だけを決める」
ネアはセトの回路へ意識を向けた。
火と月を一つへ混ぜるのではない。
左右から来る力を別々に受け、必要な分だけ身体へ通す構造が見える。
それ以上は剣と翼の側にためたままでよい。
「お互いに戦いやすいはずだ。それに、負荷がかかったらすぐ分かる」
「途中で力を使い切ったら、全員終わりですからね」
「ああ。だから、勝手には流さないでくれ」
シアは自分の四翼を一度見た。
ほんの少し前まで、この翼に引かれてネアを消そうとしていた。
今は違う。
誰と、何のために戦うかを自分で決められる。
「私はセトと戦いたい。ネアは?」
「私もです。今度こそ、自分の意思で」
シアが右手を差し出し、ネアも左手を伸ばす。
「やってみよう」
◆ 二本の四翼精霊剣
シアの身体が赤い光へ変わった。
人の形がほどけ、光がセトの右手へ集まっていく。
四枚の翼は消えない。
むしろ、剣となったシアとセトをつなぐ流れに合わせて、大きく広がった。
極炎。
七個の赤い分霊核がセトの右側へ並ぶ。
四翼と核を巡る力は、剣の側で循環を続けていた。
セトの右腕へ流れ込むのは、本人が受け取ろうとした分だけだ。
続いて、ネアの身体が黒い光へ変わる。
黒い光がセトの左手へ集まり、細い剣の形に収まった。
絶光。
黒い四翼が、赤い翼とは別の流れを保ったまま広がる。
七個の黒い分霊核も左側に並び、ネア自身の循環へつながっていった。
右腕には火の精霊力。
左腕には月の精霊力。
二つが胸へ達しても、ひとつに混ざることはない。
水の精霊王の構造を持つ回路が、それぞれの力を受け止め、必要な分だけ別々に通した。
セトは右手を少し動かす。
赤い四翼がそれに応えた。
次に左手を動かすと、黒い四翼が遅れることなく向きを変える。
十四個の核は、セトが無理に操らなくても、それぞれの精霊王が位置を整えていた。
『聞こえるか?』
極炎からシアの声が届く。
「ああ。そっちは?」
『問題ありません。流れも安定しています』
絶光からネアが答えた。
赤い剣は、手の中で微かに熱を帯びた。
黒い剣は、周囲の流れを薄く押し分けている。
同じ二刀でも、以前の極炎と絶光とは力の巡り方が違う。
四翼と分霊核の存在感が、セトの背後から伝わってくる。
その大きさに気圧されかけたが、握る手は緩めなかった。
セトは胸を通る二つの力を確かめる。
大きい。だが、前のように押し潰される感覚はない。
自分が通す量を選び、それぞれが剣の側で力を保っている。
「二人とも、頼むぞ」
『任せろ!』
『ええ。今度は三人で』
セトは二本の剣を握り直した。
右手に極炎。左手に絶光。
背には赤い四翼と黒い四翼。
周囲には十四個の分霊核が並ぶ。
肥大化した光の精霊王が、巨大な四翼を開いた。
セトも八枚の翼を広げる。
二本の四翼精霊剣。
セトは、八翼となった。
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