(六)最大の戦力
◆ 核の場所
ネアが上方へ視線を向けた。
星の外には、巨大な白い輪郭が残っている。
光の精霊王だ。
四枚の翼を広げ、周囲の原光を取り込みながら近づいていた。
「光の精霊王が来ています。このまま地上へ戻りますか?」
「いや。たぶん、ここで戦うのが一番いい」
セトは巨大な姿を見た。
人型だった頃の輪郭は崩れ、膨れ上がった力が周囲へ流れ出している。
あれが地上へ近づけば、戦うことそのものが危険になる。
地上には巻き込まれる人も、壊れるものもある。
「肥大化したまま地上へ来られたら、避けるだけでも被害が出る」
「では、ここで決着をつけるのですね」
「ああ。でも、外側をいくら削っても終わらなさそうだ」
フィオラが巨大な光を見つめた。
「身体がどれほど肥大化しても、核はあるはずです」
「核の場所は?」
シアが尋ねる。
フィオラは首を横に振った。
「分かりません。ただ、お二人なら、見当がつくのではないでしょうか」
「私たちに?」
「自分の身体で、もっとも壊されたくない場所を考えてください」
シアは、再構成した左手を頭へ持っていった。
手足は失っても作り直せた。
身体の一部を光で穿たれても、四翼が残る限り形をつなぎ直せた。
だが、何もかも同じように扱えるわけではない。
「頭だな。ここはまずい。他なら、なんとかなる」
「私も同感です。頭部に相当する部分は守りたいですね」
「ならば、頭です」
フィオラは白い巨体の上方を指した。
外形はもはや人間の姿ではないが、額に当たる場所は見分けられる。
核があるなら、その奥ではないか。
シアは眉を寄せる。
頭を壊されたくないのは自分たちも同じだが、光の精霊王まで同じ作りかは分からない。
ネアも同じ疑問を抱いていた。
それでも、全身のどこかを当てずっぽうで攻撃するよりは、理由のある推測だった。
位置を特定できるのは、実際に近づいた後になる。
「決まったわけじゃない。でも、狙う場所は絞れた」
セトはそう言って、近づいてくる光の精霊王を見据えた。
◆ 最大の戦力
「私とネアで迎え撃つ」
シアが戻った左腕を振ってみせた。
ネアも七個の黒い核を動かし、相手との距離を測る。
だが、巨大な光の精霊王は二人が覚えている姿より、さらに大きくなっていた。
「以前より肥大しています。まともに戦っても、削りきるのは難しいでしょう」
「八門を二人で撃つ」
「それでも、次々に再生されたら同じです」
「じゃあ、どうする?」
「二人の精霊剣で戦う」
答えたのはセトだった。
シアとネアが同時に振り返る。
「今の私たちは精霊翼を得ています。通常の精霊剣と同じではありません」
「分かってる」
「四翼だけでも大きな循環があります。十四個の分霊核を加えれば、セトへ向かう負荷は想像以上になります」
「それも、少しは見えてる」
セトは二人の四翼を交互に見た。
赤い流れと黒い流れは別々に巡っている。
剣となってもそれぞれの出力を維持し、その全部を人間の身体へ通す必要はない。
「前なら無理だった。でも、今の回路なら受け止められるかもしれない」
「水の精霊王の構造になったからといって、安全とは限りません」
フィオラが静かに言った。
セトも否定しなかった。
「分かってる。通す量を間違えれば、また壊れる」
「それでも、現在使える最大の戦力なのは事実です」
ネアは黙ってセトの胸元を見た。
確かに、以前より流れを受け止める構造が柔らかい。
負荷が集中する場所を避けて、別の流れへ逃がす余地もある。
ただし無制限ではない。
「以前より、力を通した先の負荷が見える。どこで止めるかも、自分で決めたい」
「ある程度、でしょう?」
「ああ。確実だとは言えない」
シアは少しだけ笑った。
「最初から確実だったことなんて、ないだろ」
セトもうなずいた。
三人は、再び同じ戦い方を選ぼうとしていた。
セトは、以前に二本の精霊剣を放したときのことを覚えている。
あのまま握り続ければ、先にシアとネアが壊れていた。
だから自分の刃を選び、精霊回路を失った。
今回は、同じことを繰り返さないために三人で制御の方法を決める。
強さだけではなく、どこで力を止めるかが必要だった。
※第55話「二本の四翼精霊剣」は全七回です。
続きます。
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