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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第55話 二本の四翼精霊剣

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(五)再会のあと

◆ そんなことがあったのか


「――そんなことがあったのか」


 水の球の内側へ、シアの声が落ちた。

 セトは翔嵐を握ったままうなずく。

 その左手から、水が絶えず広がっていた。


「ヴァルナはどうなった?」

「村の祠へ戻った。何も失っていない」

「セトの中にいるわけでもないのですね」

「ああ。回路の形が変わっただけだ」


 ネアはセトの胸元へ意識を向けた。

 かつての精霊回路とは、流れがまるで違う。

 分かれても途切れず、負荷がかかる場所を避けながら戻っていく。

 それでも、その中に水の精霊王の意識は見つからなかった。


「確かに、セトのままです」

「最初からそう言ってる」

「水の精霊王に変わったわけではありませんね」

「そりゃそうだろ。剣だって、今までどおり握ってる」


 シアは右手を伸ばしかけ、左腕がないことを思い出した。

 少し困った顔で、その代わりにセトの肩へ近づく。

 シアがセトの肩に軽く触れると、そこには確かな体温があった。

 精霊力の流れがどれほど変わっても、この人間がセトであることは変わらない。


 ネアもセトの内側を調べ続けるのをやめた。

 説明できないことを急いで整理するより、本人と話せることの方が今は大きかった。


 セトも剣を持つ手を動かさず、シアの方へ顔を向けた。


「よかった。生きてるなら、それでいい」

「ああ。二人もな」


 ネアも、欠けた身体のまま静かにうなずいた。

 あの山小屋を出たとき、自分たちはセトの命を守るために、分霊核を探しに行った。

 一か月後、こうしてセトに救われるとは考えていなかった。


 ヴァルナがなぜ危機を知ったのか。

 どうして、再構築できると考えたのか。

 疑問は残る。

 しかし、答えを求めるために今の状況を止めることはできない。


 水の膜の外から、激しかった風音が消えた。

 星の縁が下へ遠ざかり、周囲には暗い空間が広がる。

 三人は再び星の外へ出ていた。


◆ 身体を戻す


 翔嵐が銀緑色の光に変わった。

 セトの右手から細い剣が消え、光が人の形を取る。

 フィオラが、透明な水の球の中へ姿を現した。

 シアとネアが四翼から力を加え、水の球を衛星軌道へ乗せる。

 進む向きが安定したところで、セトは翔嵐を握っていた手をゆっくり下ろした。


「シアさん、ネアさん。お戻りになれて、よかったです」

「まだ帰ってきたわけじゃないけどな」

「それでも、まずはお二人の身体です」


 フィオラの視線に、セトもうなずく。

 シアは左腕と右脚を、ネアは右腕と左脚を失ったままだった。

 四翼があるから、辛うじて今の姿を維持できている。


「二人とも、自分の身体は治せるか?」

「空気に削られないなら治せる」

「私も可能です。ただ、すぐには戻りません」

「急がなくていい。まず元の形に戻ろう」


 シアの赤い四翼が周囲の原光を集める。

 光は左肩から伸び、失われた腕の輪郭を作り始めた。

 右脚にも赤い光が巡り、光に穿たれた身体の内側を埋めていく。


 ネアは黒い四翼を開いた。

 切断された右腕と左脚を、細い原光の流れで一つずつ再構成する。

 長い袖と羽衣も、身体の形に合わせて整っていった。


 すぐには完成しない。

 一か月の戦闘と光の追撃で失った力は大きく、四翼の循環もまだ不安定だった。

 それでも、水の膜の内側では、修復している部分を空気に削られることがない。


 シアは戻りかけた左手を動かした。

 指先の形が崩れたため、慌てて力を戻す。


「おい、まだ動かせないのか」

「形が安定するまで待ちなさい」

「分かったって」


 ネアはそのやり取りを聞きながら、自分の右腕をゆっくり伸ばした。

 今度は崩れない。

 シアも少し遅れて手を握り直す。


 セトはその様子を見て、少しだけ息を吐いた。

 先ほどは再会を喜ぶ余裕さえなかった。

 いま目の前では、二人が失った身体を自分の力で戻している。

 ようやく救出できたという実感が湧いてきた。

 ただし、星の向こうで白い巨体が動いていることも忘れてはいなかった。


 散らばっていた分霊核を呼び戻すため、二人は周囲へ細く原光を伸ばした。

 赤い核が一つ、また一つと近づき、七個がシアの周囲へ並ぶ。

 ネアの黒い分霊核も七個そろい、四翼との循環をつなぎ直した。


 セトは、ようやく二人が自分の足で立つ姿を見た。



※第55話「二本の四翼精霊剣」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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