(七)下から来るもの
◆ 届かない力
大地と海の境が、はっきり見えるようになった。
さっきまで星全体の形として見えていたものが、いまは二人の進む先を埋めようとしている。
シアは炎を絞り、ネアは黒い線をつなぎ直す。
どちらも一度は途切れ、また始まる。
その間にも空気の抵抗は増し、翼の表面から光が剥がれ落ちていった。
力を使えば削られる。
使わなくても、落下によって削られる。
シアは、残った右腕を強く握った。
「ネア、あとどれくらいもつ?」
「正確には分かりません。今のままでは、地上へ達する前に防御が崩れるかもしれません」
「じゃあ、もっと減速しないとな」
「そのための余力がありません」
「さっきから、そればっかりだな」
「事実ですから」
シアは返事をせず、赤い翼へ流す力を少しだけ変えた。
ネアも、黒い線を細くして維持する。
二人が選んだのは、一度にすべてを使い切ることではなかった。
少しでも長く保ち、できる限り落下を弱める。
それしかできない。
シアがネアを見る。
ネアもシアを見る。
さっきまでなら、視線が合えば相手を消すために動いた。
今は、次にどちらが力を出すかを確かめる。
「もう一度強く出す。短くだ」
「私が向きをまとめます」
「頼んだ」
シアの四翼が開き、ネアの黒い線がその周囲へ集まった。
赤い光が強くなる。
そのとき、ネアは別の流れに気づいた。
◆ 下から来るもの
星の方角から、淡い緑色の原光が近づいていた。
光の精霊王の白い力ではない。
空気の抵抗に乱されながらも、一本の流れが下から上へ伸びてくる。
その流れは大きく曲がらず、二人の落下する方向へ向かっていた。
「シア。何か来ます」
「下から?」
「こちらへ真っすぐ向かっています」
シアは噴射を弱め、緑の光を見る。
風の精霊王の力に似ている。
だが、ただ風を吹かせているのではない。
前へ進むために周囲の流れをそろえ、一直線に上昇している。
「風の精霊王?」
「いえ。この形は――」
近づくにつれ、緑の流れの中心に細い剣が見えた。
風の精霊剣、翔嵐。
フィオラが自分の意思で剣となり、誰かの手へ身を預けている。
ならば、剣を握っている者がいるはずだった。
ネアは目を凝らす。
緑の光と空気の揺らぎの向こうに、人影がある。
濃灰色の旅装。黒に近い髪。
片手には、淡く緑色に輝く翔嵐。
その姿を、二人とも知っていた。
知っているだけではない。
何度も共に旅をし、二人が自ら剣となることを選んだ相手だ。
だが、ここへ来られるはずがなかった。
最後に見たとき、その人間の精霊回路は壊れていた。
生きて目を覚ますかどうかさえ分からなかった。
なのに今、その人間が自分の手で剣を握り、星の下から上がってくる。
シアは炎を放つことも忘れた。
ネアの黒い線も、一瞬だけ止まる。
近づいてくる人影は、真っすぐ二人を見上げていた。
「セト……?」
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