↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第54話 名前を取り戻す

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
336/425

(六)削られる翼

◆ 削られる翼


 空気の抵抗が強くなった。


 シアの赤い四翼の前面から、光が細かく剥がれ落ちる。

 ネアの黒い翼の縁でも同じことが起きていた。


 白い衣装の表面から赤い光が散り、ネアの長い袖と羽衣からも黒と銀の光がちぎれていく。

 四翼の防御膜が、空気との接触によって削られていた。


「これは、なんか削り取られてる感じだ」

「実際に空気との摩擦で削られています」

「空気って、こんなに硬かったか?」

「私たちの速度が速すぎるのです」


 シアは星へ向けて炎を放つ。

 火が広がり、身体が横へ押される。


 ネアが黒い線で流れを整えるが、次の瞬間には別の方向から抵抗がかかる。


 減速はしている。

 それでも、二人を安全に止めるほどではなかった。


 さらに、四翼の前面が明るくなり始めた。

 シアの赤い翼は外縁から白く輝き、ネアの黒い翼の周囲にも淡い光がまとわりつく。


 大気との高速の衝突が、熱を生んでいる。


「削りきられたら消えるのか?」

「その前に、摩擦の熱で火がつきます」

「火の精霊王が熱で消えるのか」

「十分に削られれば、火でも月でも同じです」

「笑えないな」

「笑うところではありません」


 ネアの返事は、いつもの調子だった。

 シアは少しだけ安心した。


 だが、身体を守っている膜は刻々と薄くなっている。

 安心したからといって、助かるわけではなかった。


◆ 熱の中で


 熱は二人の身体の前面へ集中していた。


 シアは赤い翼を少し傾けた。

 削られ続けていた場所をずらそうとしたのだ。

 だが、空気へ触れる面が変わると、今度は身体が横へ押し出される。


 ネアが黒い線で動きを整える。

 わずかに姿勢が戻ったが、その分だけネア自身の防御膜が薄くなった。


 欠けた身体を維持するためにも原光が必要だった。

 失った腕や脚を、その場で作り直せる余力などない。


「私のことはいい。自分の方を守ってくれ!」

「あなたが回転すれば、こちらの流れも乱れます」

「そういう話じゃなくて!」

「私も同じことを言おうとしていました。互いに、自分の翼を保ってください」


 シアは唇をかんだ。


 相手を守ろうとして力を使いすぎれば、その相手まで危険にさらす。

 かといって、自分のことだけを考えれば、二人の動きはばらばらになる。


 さっきまでの戦いとは違う難しさだった。


 ネアは翼の角度を変え、空気に押される向きを少しだけ調整する。

 シアもそれに合わせて火を絞った。


 短い間だけ、二人の姿勢がそろう。


 だが、その均衡はすぐに崩れた。

 大気は濃くなり、空気の押す力は強くなる一方だった。


 シアの翼から赤い光が剥がれ、ネアの黒い翼にも細かな乱れが走る。

 自分たちで選んだことを実行できても、世界の側がそれに合わせてくれるわけではない。


◆ 守るか止めるか


 シアは翼へもう一度力を集めた。

 落下を弱めるために、残った原光をすべて火へ回そうとする。


 その瞬間、右側の翼を覆う防御膜が大きく揺れた。

 ネアが黒い線を伸ばして流れを整える。

 だが、ネア自身の翼も削られていた。


「シア、それ以上の噴射はやめてください」

「強く出さなきゃ止まらない!」

「防御へ回す力がなくなります」

「守ってるだけじゃ、地面にぶつかるだろ!」

「だから、どちらかだけでは駄目だと言っているのです」


 シアは言い返しかけて、翼の外縁を見た。

 防御膜の薄くなった部分から、赤い光がちぎれている。

 炎を強めた分、身体を維持するための流れが不足していた。


 ネアも黒い線を二人へ広げすぎれば、自分の防御が保てなくなる。

 互いを助けようとして、どちらかが消えてしまっては意味がない。


「じゃあ、どうする?」

「短く噴射してください。私が流れを整えます。危なくなったら、すぐ止める」

「それじゃ、あんまり減速できない」

「ですが、続けられます」

「……分かった。ネアが止めろって言ったら止める」

「本当に聞くのですね?」

「今は聞く!」


 シアが短く火を放ち、ネアの黒い線がその向きを整える。

 防御膜が薄くなる前に、シアが出力を引く。

 ネアも線を減らし、それぞれの翼へ力を戻す。


 繰り返すたびに、少しだけ速度が変わる。


 しかし、落下は終わらない。

 赤と黒の翼は、同じ方向へ力を使いながら削られ続けた。



※第54話「名前を取り戻す」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。