(四)少しあがく
◆ 残された四翼
二人の四翼には、まだ原光が流れている。
ただし、周囲から力を取り込み、身体へ巡らせて、再び翼へ送る流れが途中で乱れていた。
光の精霊王の攻撃で、その循環が何度も断たれたためだった。
シアは翼を一枚ずつ動かそうとする。
右上の翼を強めると、左下の翼が暗くなる。
四枚へ同じように力を流そうとすれば、どこかで途切れてしまう。
ネアも、自分の黒い翼を確かめた。
線を広げるほど防御へ回る力が減る。
四翼が身体を保っている以上、すべてを操作へ使うわけにはいかなかった。
「なんか、いっぱい力を集めようとすると、逆に何も出なくなる」
「流れを一度に通しすぎています。途切れている場所へ、さらに力を押し込んでも続きません」
「じゃあ、ちょっとずつなら?」
「試す価値はあります」
「ネアの方は?」
「細い線を短い間だけ維持するなら、なんとか」
シアは散った分霊核の方角も探した。
先ほどまで八門を形作っていた七つの赤い核は、もう近くにそろっていない。
ネアの黒い核も同じだった。
戻そうと思っても、探して呼び寄せるための余裕がない。
落下を止めるのに必要なものは、まず残っている四翼だった。
二人は目を合わせる。
完全な力を取り戻してから動く時間などない。
使える力を、使える範囲で組み合わせるしかなかった。
◆ 回転を止める
シアは右腕を星へ向けた。
そのつもりだったが、身体が回っているため、腕の先はすぐに横を向く。
赤い四翼を広げ直しても、崩れた原光循環が思うように応じない。
少量の火が噴き出した。
落下へ逆らうはずの炎が斜めに伸び、身体をさらに回転させてしまう。
「まずい、余計に回った!」
「見れば分かります。いったん出力を止めてください」
「止めたら、もっと落ちる!」
「今の向きで噴射しても、減速になりません」
シアが炎を止める。
星が視界の端から端へ流れていく。
ネアは黒い線を伸ばした。
以前なら周囲の原光を自在につかめたが、今は線が細く、すぐにほどける。
それでも一本だけ、シアの四翼の外側を流れる原光へ触れさせた。
黒い線で身体を引き上げるのではない。
乱れた流れを少しだけ曲げ、回転へ逆らう向きを与える。
シアはそれに合わせ、反対側の翼から小さく火を出した。
回転が弱まる。
二人の位置はなお変わり続けるが、星の方向を見失わずに済むようになった。
「今なら、下が分かる」
「下ではなく、星へ向かう方向です」
「同じだろ」
「向きを間違えないなら、そういうことにします」
ネア自身も黒い翼の流れを整える。
シアだけを見ていると、自分の回転が大きくなる。
二人とも、まず自分の姿勢を保たなければならない。
一度にできることは少ない。
それでも、無駄な方向へ力を使うよりはましだった。
◆ 火と線
「始めます」
「こっちもいく!」
シアの四翼から火が放たれた。
八門には遠く及ばない。
一本の太い炎にもならず、四枚の翼から不安定な火が噴き出す。
それでも炎は星へ向かい、反作用で落下へわずかに逆らった。
ネアは黒い線を巡らせた。
重力そのものを動かすのではなく、二人の身体と四翼に流れる原光を整え、落下へ逆らう動きが崩れないようにする。
すぐにシアの炎が途切れた。
出力を保てない。
ネアが整えた流れも乱れ、二人の身体が別々の方向へ傾く。
「もう一回!」
「待ってください。いま放てば、私から離れます」
「だったら、ネアもこっちへ!」
「そのための力まで残っていません」
シアはネアのいる方向を確かめた。
これまでなら、遠ざかった相手へ追いつくために火を使った。
今は逆だった。
離れすぎないように、火を弱める必要がある。
ネアが黒い線を二人の周囲へ伸ばし、原光の流れをそれぞれ調整する。
シアは短く火を出して、ネアの落下に合わせた。
黒い線が切れる。
シアの炎も消える。
何度もやり直した。
ようやく二人の距離が大きく変わらなくなった。
「さっきより合ってるだろ」
「ええ。ですが、落下そのものは止まっていません」
「分かってる。次だ」
赤い火と黒い線は、今度こそ同じ目的へ向けられていた。
※第54話「名前を取り戻す」は全七回です。
続きます。
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