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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第54話 名前を取り戻す

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(三)互いの傷

◆ 見落とした光


 シアは、視線を上へ向けた。

 さっきまでは見る余裕もなかったものが、ようやく見えた。


 落下する二人のはるか上方に、巨大な白い輪郭がある。

 四枚の翼が、星々を隠すほど広がっていた。


 光の精霊王だ。


 シアは、あれに撃ち抜かれた瞬間を覚えている。

 白い光が身体を貫き、その後も細い光が何度も降り注いだ。


 しかし、光の精霊王がいつ近づいてきたのかは、思い出せなかった。

 いや、見ようとしていなかったのだ。


 シアが追っていたのはネアだけだった。

 ネアもシアの火ばかりを見ていた。

 あれほど巨大な力が近くへ来ても、二人の中では、目の前の相手を消すことより重要ではなかった。


「ネア。あんなに大きいのがいたのに、どうして気づかなかったんだろうな」

「気づけなかったのではありません。見ていなかったのです」

「そっか。私も、ネアしか見てなかった」

「私もです」


 二人は白い巨体を見る。

 今の力では、とても戦える相手ではない。

 そもそも、落下さえ止められない。


 それでも、あの巨体が世界の外側に残っていることは理解できた。

 名前を取り戻したからといって、失敗した事実がなくなるわけではない。


 シアは、もう一度ネアへ目を向けた。

 今度は相手だけを見るのではない。

 ネアの向こうに広がる星も、その星へ落ちている自分たちも、ちゃんと視界へ入れた。


◆ 互いの傷


 シアは改めてネアを見た。

 右腕がない。

 左脚もない。

 光に撃ち抜かれた身体の一部も、大きく欠けている。


 あれほど長く戦っていながら、相手の身体が欠けていることに意味を感じなかった。

 動いているなら、まだ消せる。

 それだけだった。


 ネアも、シアの左肩と右脚があった場所を見る。

 互いの攻撃を、はっきり覚えていた。


「ネア、その腕と脚……」

「あなたにやられました」

「そうだよな。私が焼いた」

「あなたの左腕は、私の線が触れたあと、ご自分で切り離したのでしたね」

「ああ。あのままだと、身体まで崩れそうだったから」

「右脚も私の線です」

「そっちも覚えてる」


 シアは自分の欠けた手足より、ネアの姿が気になった。

 ネアの方も同じだった。

 自分の右腕がないことより、シアがあの場でどんな判断をしたのかが気にかかる。


 先ほどまでなら、互いにそんなことを考える余地すらなかった。


「覚えてるのに、何とも思わなかった」

「ええ。あなたの腕がなくなっても、次にどう攻撃するかしか考えていませんでした」

「……ひどい話だな」

「本当に」


 シアはネアを見た。

 ネアも目をそらさない。


 互いが傷つけた事実は消えない。

 原初の欲望があったからといって、起きたことまでなかったことにはできない。


「悪かった」

「私もです」


 その先は続かなかった。

 謝りたいことは、ほかにもある。


 だが、大地と海は先ほどよりずっと大きく見えていた。


◆ まだ落ちている


 シアが下を見る。

 いや、正確には、身体が回るたびに見える星の方角を確かめた。


 地上までは、まだ距離がある。

 それでも二人は落下を続け、速度を増している。


 ネアの黒い翼は、少し動かすだけで流れが乱れる。

 シアの翼も同じだった。


 名前を取り戻しても、失った力まで戻るわけではない。


「まず、これをどうにかする」

「できますか?」

「できないかもしれない」

「そうでしょうね」

「でも、何もしなければ落ちる」

「すでに落ちています」

「分かってる!」


 シアは残った右腕を動かした。

 赤い四翼へ意識を向ける。

 先ほどは相手を消す方向へ、力が勝手に流れていた。

 今は自分で、何に力を使うのかを決める。


 セトがいれば。

 そう考えかけて、シアは言葉を飲み込んだ。


 最後に見たセトは、精霊回路を壊され、目を覚ますかどうかも分からなかった。

 助けに来られる状態ではない。

 ネアも、そのことは分かっている。

 だからこそ、セトの名を口にせず、星と四翼を交互に見ていた。


「少しあがく」

「どうします?」

「下方向へ放射して勢いを抑える。ネアは重力ってやつを少し止める。少なくとも以前より強くやれるはずだ」

「重力そのものを止めるわけではありませんが」

「落ちる力に逆らえれば何でもいい」

「解決ではありませんが、多少ましにはなります」

「それでいい」


 シアが一つうなずいた。

 ネアも黒い翼を広げる。


 今度は、互いを消すためではない。



※第54話「名前を取り戻す」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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