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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第54話 名前を取り戻す

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(一)落ちていく

◆ 落ちていく


 星が近づいてくる。

 大地と海が、少しずつ形を大きくしていく。

 シアとネアは、互いに離れたまま落下していた。


 シアの背には赤い半透明の四翼。

 ネアの背には黒い四翼が残っている。

 だが、どちらも光が弱く、翼を通る原光は途中で乱れていた。


 シアが火を放とうとすると、翼の外縁へ集まった赤い光が炎になる前に消える。

 ネアが伸ばした黒い線も、周囲の原光をつかむ前にほどけた。


 二人の身体は回転している。

 星へ向けて腕を伸ばしても、次の瞬間には星が背後へ回る。

 どちらが上かさえ、定まらない。


 光の精霊王による追撃は終わっていた。

 それでも、撃ち抜かれた身体の傷は残っている。


 シアには左腕と右脚がない。

 ネアには右腕と左脚がない。

 それらは互いの攻撃で失われたものだった。


 さらに、光の精霊王の収束した光が、二人の身体を大きく穿っている。

 四翼が残った身体を支えているから、かろうじて形を保てているにすぎない。

 七個ずつの分霊核も、先ほどの位置にはなかった。

 光に弾かれて散り、並べ直す余力もない。


 それでも二人は、欠けた手足を見なかった。

 互いのいる方向ばかりを探している。


 赤い四翼が動く。

 黒い四翼も応じようとする。

 どちらも、相手へ向かうために。


 だが、身体を押し出す力は生まれない。


 落下だけが続いた。


◆ 残る命令


 消さなければならない。


 シアの中には、それしかなかった。

 黒いものがいる。

 自分ではない月がいる。

 それを消せばよい。


 ネアも同じだった。

 赤いものがいる。

 自分ではない火がいる。

 残しておく理由などない。


 二人は何度も力を集めようとした。

 シアは四翼を開き、ネアは黒い線を組み直す。

 八門を使おうとしても、散った分霊核は応じない。


 できないなら近づけばいい。

 近づいて、残った力をぶつければいい。

 そう判断しても、身体は落ちるばかりだった。


 先ほどまでは、命じた瞬間に四翼が動いていた。

 相手を消すという目的へ、周囲の原光が吸い寄せられ、次の攻撃が形になった。

 身体の一部を失っても、その流れは止まらなかった。


 今は違う。


 光の攻撃で原光循環が乱れ、欲望が求めるだけの力が集まらない。

 命令だけが繰り返され、結果が返ってこない。


 その空白へ、別の認識が紛れ込んだ。


 落下が始まってから、相手を消すこと以外へ意識が動いたのは初めてだった。

 どうして、目の前のものを消さなければならないのか。


 問いの形になったのは一瞬だった。

 すぐに、消せという思いが覆いかぶさる。


 それでも、何もなかった場所へ、わずかな隙間ができていた。

 欲望が消えたわけではない。

 奪われていた自分の判断が、ようやくその下から顔を出し始めたのだった。


◆ 赤いもの


 ネアは身体を回転させながら、赤いものを見た。

 短い赤橙色の髪。白い衣装。背に広がる四枚の赤い翼。

 左腕と右脚を失いながらも、なおこちらを向こうとしている。


 火の精霊王。


 その知識は、すぐに出てきた。

 イフリートという役割。

 炎の扱い方。生まれ変わっても受け継がれるもの。


 だが、それだけでは目の前の姿を説明できなかった。


 あの髪が不規則に跳ねる様子も、何かを思いつくとすぐに飛び出してしまう振る舞いも、イフリートの役割に含まれてはいない。

 何度も危険へ飛び込み、そのたびに注意を聞き流した。


 同じ人間の両手へ、それぞれ剣となって収まったこともある。

 背中を預けることが当たり前になった時間もあった。


 それらは知識ではなく、ネア自身の記憶だった。


 ネアは、何代ものイフリートを見てきた。

 ある一人が消えても、次のイフリートはいずれ生まれる。

 役割は失われない。

 そのことを、長い年月の中で知っている。


 だからといって、次に生まれる者が、この赤い髪の少女になるわけではない。


 目の前の存在を消しても、火の役割は残る。

 だが、この者とのやり取りは二度と戻らない。


 その違いを考えようとした瞬間、原初の欲望が再びせり上がった。


 自分以外はいらない。

 ほかの王は消せ。


 ネアは黒い四翼を開いた。

 攻撃するためではない。

 赤い姿を、もう一度正面から見るために。



※第54話「名前を取り戻す」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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