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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第53話 八門

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(五)肥大する光

◆ 過ぎた時間


 赤い火が走り、黒い線が交わる。

 八つの射点が向きを変えた直後には、次の攻撃が始まっていた。

 どちらも、長く構えることはしない。

 四翼の流れを通して核の向きをそろえれば、また同じ術を放てる。

 避けてから撃つまでのわずかな動きさえ、次第に短くなっていった。


 戦場は星の周囲を移動している。

 星の明るい側から暗い側へ入り、また光のある側へ抜ける。

 その間にも、シアはネアへ火を放ち、ネアは黒い線を伸ばした。

 昼夜の移り変わりを見上げる者は、そこにいない。

 二人の目が追っているのは、互いの翼と核だけだった。


 八門を続けて使えば、核の蓄えは減る。

 しかし四翼は動く間も原光を集め続け、途切れた流れをつなぎ直す。

 大きな一撃を避けた直後に、もう次の一撃が来る。

 力が少ない時には出力を落としてでも撃つ。

 それでも止められないなら、角度を変えてもう一度放つ。

 休むために距離を取る者はいなかった。


 どれだけの時間が過ぎたのか。

 何度八つの火を放ち、何度八本の線を伸ばしたのか。

 二人は数えていない。

 数えたところで、相手が消えるわけではないからだった。


 シアの左腕と右脚は戻らない。

 ネアの右腕と左脚もない。

 だが、互いの欠けた場所さえもう見ていなかった。

 次に相手の四翼がどう動くか。

 七個の核がどちらを向くか。

 それだけを見て、戦い続けていた。


◆ 肥大する光


 二人が戦っている場所から離れた暗い空間に、白い光があった。

 初めは遠くの星々と見分けがつかないほど小さかった。

 それが次第に広がり、星の光を隠し始める。

 近づいてくるだけではない。

 周囲に漂う原光が白い輪郭へ引き寄せられ、そのまま取り込まれていた。


 光は収まる気配を見せない。

 取り込んだ原光は白い身体の内側へ流れ、外側の輪郭をさらに押し広げる。

 一度広がった場所が縮むことはなく、重なった半透明の層が次々と増えていく。

 その表面には明るい場所と薄暗い場所が混在していた。

 重なった光の厚さが場所ごとに異なり、遠くから見ると不規則に膨らんでいる。


 それは、光の精霊王だった。


 かつて人間の姿に近かった身体は、もはやそう呼べる形をしていない。

 頭部に相当する膨らみが前方へ突き出し、その下には胴体らしき大きな塊が続いている。

 左右から伸びた部分も、腕と呼べるほど細くはなかった。

 膨れ上がった白い層の中で、部位の位置だけが人の身体を思わせる。


 人型ではない。

 しかし、何かに例えるなら巨人だった。

 その巨体に比べれば、シアとネアは遠くで明滅する二つの小さな点でしかない。

 四枚の白い翼は身体の背後へ大きく広がり、翼の端が星々を隠していた。

 羽ばたいてはいない。

 翼の全体で原光を集め、肥大した身体へ送り込んでいる。


 頭部に相当する場所の前面には、幅広い平らな部分があった。

 顔として整った輪郭はない。

 目や口に見える暗い場所もあるが、表情を読み取ることはできなかった。

 額に当たる部分だけでも、普通の人間が降り立ち、その上を歩き回れるほどの広さがある。

 そこへ立てば、巨大な存在の頭の上にいるとは思えないかもしれない。

 半透明の光に覆われた地面が、前後左右へ続いているように見えるはずだった。


 巨体の周囲で、白い光が何度も明滅した。

 原光が集まるたび、表面の別の場所が強く光る。

 その動きに一定の表情や感情はなかった。

 ただ、原光を集め続け、赤と黒の二つの光へ向かって近づいていく。

 近づくにつれて、遠い星を覆う白い輪郭が大きくなっていった。


 それでも、シアとネアは振り向かなかった。


◆ 見えない巨体


 シアが右手を伸ばす。

 八つの赤い火が、ネアの周囲へ広がった。

 ネアは左手を上げ、黒い線で火を曲げる。

 七個の黒い核が向きを変える。

 次の八本が走る前に、シアは身体を横へ滑らせた。


 その背後で、白い翼が広がっていた。

 巨大な四枚の膜が、何もない空間を埋めている。

 隠れるための動きなどしていない。

 巨体はそこにあるだけで、周囲の原光を集め続けていた。


 ネアは本来、広い範囲の原光を感じ取れる。

 シアも、遠くの大きな力を捉えられる。

 目の前の相手に出会うまでは、それを手掛かりに互いのところへ向かっていた。

 今も感じ取る力そのものが失われたわけではない。

 ただ、その情報へ意識を向けなくなっている。


 ネアが読むのは、シアが次に火を放つ場所だった。

 周囲の原光が大きく動いても、黒い線で触れるべきものは目の前にある。

 シアが見るのも、ネアの四翼が向きを変える瞬間だけだった。

 白い光が近づくことより、黒い翼がどちらへ逃げるかの方が重要だった。


 赤と黒が交わる。

 白い巨体の前で、二人の光はあまりに小さい。

 シアは火を放つ。

 ネアは黒い線を伸ばす。

 二人がそれぞれ次の八門へ向き直ったところで、背後の巨大な白い身体が動きを止めた。


 頭部に相当する場所が、わずかに二人へ向いた。

 白い身体の前面で、二か所の光が強く収束する。

 二人は、まだ互いを見ていた。



※第53話「八門」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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