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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第53話 八門

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(二)八つの線

◆ 問題ない


 ネアの身体の回転が止まった。

 黒い四翼が上下の流れを整え、失った脚の分だけ傾いていた姿勢を戻す。

 左脚は戻らない。

 そこには、何もないままだった。

 ネアは足元を見なかった。


 飛べる。

 方向を変えられる。

 黒い線も伸ばせる。

 七個の分霊核も、周囲の原光を受け取っている。

 それならば、相手を消すための行動は続けられる。

 問題ない。


 痛みがなかったのか、痛みを無視したのか。

 ネア自身にも、その区別は必要なかった。

 普通なら失った身体へ向けるはずの注意が、最初からそこへ向いていない。

 赤い四翼が動けば、その次に火が通る場所を探す。

 赤い核がそろえば、今度は八つの光が放たれる場所を読む。

 それだけだった。


 シアはすでにネアへ向き直っていた。

 七個の赤い核が身体の周囲で向きを変える。

 赤い火が再び走った。

 さっきと同じように八つがそろい、ほとんど間を置かずに放たれる。

 ネアは残った脚を動かす代わりに、四翼で身体ごと移動した。


 ネアが進路の端を曲げる。

 シアの火が外れる。

 別の火が近づく前に、ネアはさらに横へずれた。

 左脚があった頃と比べ、飛行の方法は変わっていない。

 それでも、八つの火へ対処するのに余裕が生まれたわけではなかった。


 ネアは赤い核の並びを見た。

 七個の器と、中央のシア。

 同じ火が、同じ瞬間に放たれている。

 黒い四翼へ流れる原光が、わずかに向きを変えた。


◆ 八つの線


 ネアの七個の分霊核が動き始めた。

 身体のそばを巡っていた黒い玉が、左右へ広がる。

 一つずつ違う術を使わせるのではない。

 同じ操作を、七個の核と自分自身へ通す。

 シアが目の前で行ったことを、ネアも自分の属性で試そうとしていた。


 やったことはない。

 それでも、四翼から核へ原光が巡る感覚は分かる。

 核を一個ずつ動かす時とは違う。

 七個の器を、同じ一つの流れへつなげればよい。

 何を流すかは、シアとは異なる。


 シアの核は火を放った。

 ネアの核から伸びるのは、原光を曲げ、崩すための黒い線だった。

 七個の核が一斉にシアへ向く。

 ネアは右手を前へ伸ばした。

 黒い四翼の間に、八つの線が現れる。


 シアが赤い火で加速した。

 ネアの並べた核が何をするのか、まだ見えていない。

 ただ、先ほど自分が使ったのと同じ並び方であることは分かった。

 間合いを詰めて殴るつもりで、シアはまっすぐ進む。


 八本の黒い線が、同時に走った。


 最初の一本が、シアの正面に伸びる。

 シアは四翼の片側から火を放ち、身体を横へ送る。

 二本目は、その移動先を横切っていた。

 シアは身体を沈め、線の下へ入る。

 すぐに三本目が、下げた肩の前を通った。


 線は物を切るための刃ではない。

 触れた場所の原光へ作用する。

 シアには細かな仕組みなど必要なかった。

 その線を受ければ、ただでは済まない。

 赤い火が、向きを変えるためにもう一度短く噴き出した。


◆ 黒い線の隙間


 シアが黒い線の下を抜けた。

 だが、進んだ先には別の黒い線がある。

 ネアの七個の核はそれぞれ大きく動き回ってはいない。

 横に広がった射点から、同じ瞬間に線を伸ばしているだけだった。

 それでも、出発点が違えば触れる場所も変わる。


 シアは正面へ進むのをやめた。

 四翼の片側に火を集め、黒い線の間を横へ滑る。

 二本がすぐ近くを通り過ぎた。

 その隙間からネアの姿が見える。

 シアは右手を伸ばした。


 届かない。

 ネアが身体を動かしたのではない。

 シア自身の進路が、黒い線の外側に触れたことでわずかにずれていた。

 力を込め直して進もうとすると、別の線が近づく。

 シアは追うことを一度あきらめ、間合いを外した。


 次の瞬間、赤い核が向きを変える。

 八つの火がネアへ伸びた。

 ネアの八本の線も再び動いた。

 長い溜めはない。

 四翼の流れがそれぞれの核へ通り、次の攻撃が続く。


 黒い線と赤い火が交差した。

 ネアが火の進路を少し曲げる。

 シアは線をかわすため、火を噴いて横へ進む。

 火の一部が黒い線へ触れ、向きを変えた。

 だが線そのものが、火を受けて消えたわけではない。

 残った黒い流れが、シアの身体へ伸びてくる。


 シアはさらに加速した。

 正面からではなく、斜めに抜ける。

 黒い線が背後へ流れた。

 その時、最後の一本だけが、他の線と少し違う位置を通っていた。

 シアの左側には、もう避ける幅がほとんど残っていなかった。



※第53話「八門」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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