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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第52話 星の外へ

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(五)衛星軌道

◆ 重力が邪魔


 空気も風もなくなった。

 それでも、シアの身体には一つだけ余分な動きが残っていた。

 ネアへ拳を向けようとして速度を落とすと、進みたかった位置から少しずれる。

 何も押していないのに、星のある方へ引かれていた。


 シアは四翼から短く火を放った。

 下へ向かう動きを打ち消し、ネアへ向き直る。

 その間にネアは横へ移った。

 シアは再び追う。

 止まるたびに、相手だけを見て決めた進路へ別の力が混ざる。


 ネアもそれを感じていた。

 自分の身体を一点へ止めようとすると、星の方へ進み始める。

 黒い四翼で流れを直せば位置を保てる。

 だが、相手を制御しながら自分の落下も補うのは、余計な操作だった。


 ネアはシアの前方へ黒い線を伸ばし、そのまま身体を横へ移す。

 シアの軌道が曲がった。

 そこへ星へ引かれる分のずれも重なる。

 ネアが思った位置とは違う場所へ、シアの身体が流れた。

 今度はネア自身も、計算していた方向へ進めていない。


 二人はそれぞれ四翼で進路を修正した。

 できないわけではない。

 ただ、相手以外の力が何度も動きを変えることが、戦いを複雑にしていた。

 ネアは星から遠ざかる方向へ進んだ。

 シアも追い、さらに高く上がる。


 離れても、星の引く力が消えたわけではない。

 シアが一度動きを止めれば、また星の方へ軌道が変わる。

 ネアも同じだった。

 ただ高くなるだけでは、完全に自由にはなれない。

 二人は追い合いながら、星の周囲を横へ進む距離も増やし始めた。


◆ 星の曲線


 ネアが横へ滑った。

 シアはその先へ火を放ち、斜めに追う。

 ネアは再び進路を変えたが、今度は真上ではなく、星の表面に沿う方向へ移動した。

 シアも同じ高さへ進み、距離を縮めた。


 それまで二人は、星から離れるために上へ上がっていた。

 今は、その上を横へ進む時間が長くなっている。

 星の方へ引かれながらも、前へ進み続けることで、すぐ下へ落ち込まずに済む。

 ネアは一点へ止まって身体を支えるより、このまま進んだ方が四翼の修正を減らせると感じた。


 シアが追いつく。

 赤い拳が迫る。

 ネアは横へ外れ、黒い線で火の外側を曲げた。

 シアがその先へ向かう。

 二人とも、進みながら相手へ向き直る。

 星は足元にあるが、そこへまっすぐ戻ろうとはしない。


 眼下の景色が変わった。

 最初は山と谷を見下ろしていた。

 やがて大地と海の境が広く見えるようになり、今はその全体がゆるく曲がっている。

 遠いところでは、青い部分と暗い部分が一つの丸い縁へ集まっていた。


 ネアが四翼を広げ、進む速さを保ったまま上体を向け直す。

 シアも火を短く噴き、横から並ぼうとした。

 星へ引かれる力を消したわけではない。

 下へ向かう分を持ったまま、その先へ進み続けている。


 位置を維持するために常に真上へ押し返す必要が、少しずつ減っていた。

 それが二人の戦闘を終わらせるわけではない。

 ただ、動くたびに星へ引かれることを気にするより、目の前の相手へ意識を向けやすくなった。


◆ 衛星軌道


 二人の下に、星が広がっていた。

 大陸も海も、一つの曲面を形作っている。

 山脈の稜線は見えない。

 戦いを始めた谷がどこにあるのかも、もう分からなかった。

 それでも、ここから見えるのは別の世界ではない。

 さっきまで二人が攻撃を放っていた、同じ星だった。


 シアが前へ進む。

 ネアが身をかわす。

 二人は星の周囲を進みながら向きを変え、同じ高度の近くで距離を詰め直した。

 星へ向かう引力は消えていない。

 前へ進む動きと落下が重なり、星を回る軌道になっている。

 そこへ四翼が細かい修正を加えることで、戦う位置を選べていた。


 ネアが少し離れたところへ黒い線を伸ばした。

 シアの火が逸れる。

 赤い流れは真空を通り、星へ向かうのではなく遠い空へ伸びていった。

 山や雲へ当たることはない。

 シアは外れた火を追わず、ネアへ身体を向け直す。


 ここでは崩れる岩も、舞い上がる土煙もない。

 雲を熱して視界が塞がれることも、強風で衣装が引かれることもなかった。

 その代わり、相手が逃げる方向を塞ぐ地形もない。

 ネアはどこへでも動ける。

 シアもどの方向からでも接近できる。


 互いを消そうとしている二人にとって、そこは広すぎる戦場だった。

 しかし、狭い地上へ戻る理由は見つからない。

 相手を消すための行動を、地形に邪魔されず続けられる。

 それで十分だった。


 赤い光と黒い光が星の縁を横切る。

 二人は衛星軌道に達していた。



※第52話「星の外へ」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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