(一)地面が邪魔
◆ 上へ
赤い四翼が山々の上へ伸びた。
その前を、黒い四翼が斜めに横切る。
谷で始まった戦いは、もう岩壁の高さを越えていた。
シアが腕を伸ばしても、ネアは受けずに外れる。
ネアが原光を曲げても、シアは火を放って進路を戻す。
どちらも、相手を消すつもりでいた。
シアの周囲では、七個の赤い分霊核が四翼とともに移動している。
ネアの黒い核も七個。
どちらも核を運ぶことへ意識を割く必要はなく、飛行と攻撃の間も外界から原光を取り込んでいた。
新しく得た五個の器が満たされていく。
その途中でも、二人の身体は休まず動ける。
ネアが身体を横へ倒し、シアの拳を上へ通した。
シアは拳を振り切らず、翼の片側に火を集めて向きを変える。
狙いを定め直した先に、黒い線が走った。
加速に使う原光の一部が横へ逃がされる。
だが、もう地面を蹴る必要はない。
シアは手元に残る力を短く放ち、ずれた分だけ前へ進んだ。
ネアの羽衣が後方へ流れる。
黒い翼が斜め上へ移り、シアの指先から離れた。
下にあった谷は、山の間の細い線になっている。
そこへ戻って相手を追い込む理由は、二人のどちらにもなかった。
ネアが上へ逃れるなら、シアも上へ追う。
その選択を繰り返した結果、二人の戦う空間だけが広がっていった。
シアは山を越えたことに何の感慨も持たない。
見ているのは、黒い翼の動きだけだった。
◆ 外れた火の行方
シアがネアの移動先へ右手を向けた。
赤い火が細い線となって伸びる。
ネアは右へ避けると同時に、その外側を黒い流れで押した。
火の中心はほとんど曲がらない。
それでも先端がわずかにずれ、黒い衣装の脇を抜けていった。
ネアへの攻撃は外れた。
だが、放たれた火はそこで消えない。
ネアの背後には、ひときわ高い山の稜線が残っていた。
赤い線は空を横切り、その先の岩肌へ突き刺さった。
離れた場所で、岩の輪郭が赤く光る。
熱を受けた部分が砕け、斜面の一角が滑り落ちた。
ネアは火が外れたことを確認して振り返る。
シアは、次の攻撃のために身体を寄せていた。
その間に、稜線の上から新しい岩の塊が崩れ落ちる。
最初の一撃が通り抜けた後も、削られた地面が元の形に戻るわけではない。
シアは再び火を集めた。
ネアが身を引けば、火はまたその先へ抜ける。
広い空であっても、二人の下にはまだ地形がある。
撃ち抜けるほどの力を持っているからこそ、外れた先まで攻撃が届く。
シアは命中する前の進路だけを見ていた。
ネアは、避けた後に残る赤い線を視界の端で捉えた。
山腹から上がる土煙が、細く伸びた。
だが今回は、谷で見た煙そのものが問題なのではない。
火によって変わった山の形が、二人の動ける場所へ影響を及ぼし始めていた。
次の一撃で、ネアは岩のない方角へ身体をずらした。
シアは、その動きも追った。
◆ 地面が邪魔
ネアが横へ移ると、シアはその先へ回り込んだ。
ところが二人の間へ、さっきまで存在しなかった岩の角が突き出している。
炎に削られた斜面の一部が崩れ、残った岩盤だけが鋭く立っていた。
シアは身体を止め、角の外側を通った。
ネアも同じ岩を避けて、向きを変えた。
足場として使う必要などない岩が、進路を制限している。
シアはその岩へ火を向けた。
邪魔なら壊せばいい。
赤い流れが岩盤の付け根を焼き抜く。
突き出していた部分が砕け、進路が開いた。
しかし、その場に空間ができただけだった。
砕けた岩は消滅していない。
大きな塊は谷へ落ち、小さな破片は衝撃で周囲へ飛ぶ。
火で削られた岩の下では、支えを失った斜面がさらに崩れ始めた。
ネアは岩の向こうから出てきたシアを見た。
直接向かってくる拳はかわせる。
だが、その周囲に別の物が増えれば、回避のために選べる道は狭くなる。
しかも、その物はシアが攻撃するたびに増えていた。
ネアが黒い線を張る。
砕けた石の一部を横へ逃がし、シアへ向けるための流れとは別に、進路を空けた。
シアの赤い四翼は、飛んでくる破片を防御膜で弾いた。
痛みはない。
足を止めるほどの衝撃もない。
それでも、本来ならネアへ向かうだけでよかったはずの動作に、石をどかす手順が加わっていた。
地面は、攻撃してこない。
それなのに二人の間へ入り込む。
シアは岩の向こうへ抜けてから、また黒い翼を追い始めた。
※第52話「星の外へ」は全六回です。
続きます。
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