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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第51話 互いを消す

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(四)触れる膜

◆ 左右の射点


 シアの右側から、一個の分霊核が前へ出た。

 左側にも、もう一個。

 二個の赤い核がシアの少し前へ並び、残る五個は四翼の循環に従って近くを巡っている。


 シアが正面から近づく。

 ネアは左右どちらかへ避けようとした。

 その瞬間、両側の核へ赤い火が灯る。

 シア本体の正面と、左右の二か所。

 三方向から、同じ瞬間に火が伸びた。


 巨大な砲撃ではなかった。

 ネアが移ろうとする空間を塞ぐ、短い炎だった。

 右へ出れば右の火がある。左へ出れば左の火がある。

 シアは、その間を拳で進む。


 ネアの黒い四翼が大きく開いた。

 前にある三つの攻撃をまとめて受け止めれば、動ける場所がなくなる。

 ネアは上へ移ろうとするが、シアの拳も上へ向きかけていた。


 シアの掌が、ネアの胸元へ近づく。

 両側からの火はまだ続いている。

 位置取りだけなら、初めてネアの左右を塞ぐことができていた。


 ただし、七個すべてを別々の方向へ動かして包囲しているわけではない。

 シアが個別に位置を選んだのは二個だけだ。

 同じ攻撃をそろえるのは四翼が助けるが、一個ずつ異なる動きをさせるには、それぞれを意識する必要がある。


 ネアは二つの火とシアの拳を見た。

 すべてを止める必要はない。

 右か左か、どちらか一つの道だけを開けばいい。

 そのために動かすべきものは、シアの身体ではなく、横へ伸びた火の一部だった。


 黒い線が右側の炎へ集まった。


◆ 月の逃げ道


 ネアは右から迫る火の外側を捉えた。

 炎が伸びる方向へ直接逆らわず、その横へ細い流れを作る。

 炎の縁が傾き、すぐ内側に狭い隙間が生まれた。

 完全に火を消したわけではない。

 押し出される中心はまだ残っていた。


 その隙間へ、ネア自身が滑り込んだ。

 黒い四翼の片側だけを強く働かせ、身体を斜めにする。

 ネアの長い袖が火の外側をかすめる。

 熱が衣装の輪郭を一瞬乱したが、腕へ届く前に抜けた。


 シアの拳が、その後ろを通った。

 横の核から伸びていた火も、ネアのすぐ脇を通過していく。

 逃げるための道が広かったわけではない。ネアが通る分だけ、炎の向きをずらしたのだった。


 シアが右側の核へ意識を向ける。

 火を曲げられたなら、向きを戻せばよい。

 だが、その間にネアはもう別の位置へ移っている。

 一本の火を追って曲げ直すより、シア自身が相手を追った方が早かった。


 ネアは距離を取ったところで、七個の黒い核を見た。

 自分にも、力を出せる場所は複数ある。

 しかし、今のように狭い道を作るには、すべての核を別々に操る必要はなかった。

 自分の周囲の流れを少し変え、自分がそこを通る。それで足りた。


 ネアは逃げるだけの動きを終えると、黒い線をシアの進路へ戻した。

 相手を消すつもりは変わっていない。

 ただ、正面から力をぶつけても無駄が多い。

 まず相手の向きを変え、攻撃を届かせる場所を作る方がよい。


 シアは新しい進路へ身を向けた。

 その目の前へ、黒い線が伸びた。


◆ 触れる膜


 ネアの黒い線は、シアの拳へ届く前に広がった。

 拳がその中へ入ると、周囲の原光が横へ散る。

 手を包む火の一部が薄れ、進む向きもわずかにずれた。

 それでも拳は前へ出る。


 ネアは身体をかわした。

 しかし今度は、シアの炎が黒い四翼の防御膜へ触れた。

 半透明の黒い面が大きく揺れる。

 炎は膜の表面を滑り、外へ逃がされながらも、その一部が食い込もうとした。


 ネアの身体がわずかに後退した。

 直撃はしていない。

 だが防御膜へ触れただけでも、相手の出力が伝わってくる。

 正面から受け続ければ、外へ流している量より多くの力が押し込まれる。


 同時に、シアの拳にも黒い膜の抵抗が伝わっていた。

 火の先端が散らされ、押し込んだ力が別の方向へ流れていく。

 防御膜を壊す前に、その表面で力の向きを変えられている。


 赤い四翼と黒い四翼が、ほんの一瞬近づいた。

 互いの周囲にある膜が接し、赤い流れが外へ跳ねた。

 黒い膜も同じ場所で大きくたわんだ。

 二人は同時に距離を取った。


 ネアの膜へ開きかけた乱れは、外から取り込む原光で戻っていく。

 シアの拳を覆う火も、次の瞬間には同じ厚さを取り戻した。

 どちらの防御が壊れたわけでもない。

 しかし、無傷のまま何も起こらなかったのとも違う。


 接触すれば相手の力が自分へ作用する。

 それでも、すぐには崩せない。

 そこまで確認したネアは、次に膜へ触れる前に相手の身体そのものを動かそうとした。



※第51話「互いを消す」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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