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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第51話 互いを消す

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(三)届く寸前

◆ 蓄えた力


 シアの左右で、二個の赤い分霊核が強く光った。

 以前から持っていた二個だ。

 樹と重の精霊王との戦いで使った後も、四翼の循環によって力が補われていた。

 新しく集めた五個ほど空いてはいない。


 四翼へ外から入る原光が少ない。

 ならば、手元に蓄えた力を使えばよかった。

 シアが意識を向けるより先に、二個の核から赤い流れが伸びた。

 背中の翼へ加わり、後方から押し出す火が再び太くなる。


 ネアが作った薄い領域を、シアが突き抜けた。

 黒い線の位置は変わっていない。それでもシアの身体は止まらない。

 ネアは横へ移り、迫った拳をかわした。


 ネアは、動きを鈍らせた原因と、再び動き始めた原因を見た。

 外から入る量を減らしたのに、四翼へ流れる力は途絶えていない。

 赤い分霊核の蓄えが、その不足を補っている。


 七個を持っているから七個とも満ちているわけではなかった。

 新しい五個には、今も原光が流れ込んでいる途中だ。

 それでも、二個の蓄えと身体の中を巡る力だけで、一度の加速を補うには十分だった。


 シアが次の一歩に当たる加速を行う。

 ネアの黒い線が薄い領域を作り直す。

 シアはその領域を大きく避けず、短い火の放出で通り抜けた。

 長く同じ勢いを維持するより、一瞬だけ押し出す方が必要な力は少ない。


 ネアは外界の供給を妨げることをやめなかった。

 ただ、供給を減らせば動きが止まるという見込みは捨てた。

 相手には外からの流れだけでなく、内側に残した力がある。

 その両方を一度に奪うのは難しかった。


 供給を妨げるだけでは足りない。

 ネアは、すでに放たれた火そのものへ意識を向けた。


◆ 曲がる火


 シアが拳を突き出すと、その周囲へ赤い炎が巻き付いた。

 ただ殴るのではなく、当たる場所へ火を押し込む一撃だった。

 ネアはその前へ黒い線を重ねる。

 今度は外の原光ではなく、すでに火へ変わった力へ直接触れようとした。


 炎の縁が、黒い流れへ引かれた。

 ネアがさらに力を加えると、表面の火が横へ薄く伸びる。

 拳の外側を包む熱が、少しだけ弱くなった。


 だが、中心は動かなかった。

 シアが前へ押し出し続けている火は、月の線へ従おうとしない。

 ネアが正面から全部を受け止めれば、自分の防御膜へ大きな負荷がかかる。

 吸収できる量にも限りがある。流れを戻そうとしても、押し出される勢いの方が強かった。


 ネアは拳の先端にある火だけを横へずらした。

 拳の進路そのものは変わらない。

 だから、同時に自分も横へ移る。


 シアの拳が肩のすぐ横を通った。

 表面からはがされた炎が、黒い線に引かれて斜め下へ散る。

 中心に残った火は、そのままシアの拳とともに通過した。


 ネアは振り返る。

 火のすべてを曲げる必要はない。自分へ届く場所だけを外せれば、攻撃は当たらない。

 ただし、相手の身体まで操れるわけではなかった。


 シアも、拳にまとわせた火の一部が失われたことを感じていた。

 ネアへ押し込もうとした力が、横へ逃げている。

 それでも拳そのものは、狙った場所へ向かっていた。


 次の一撃でシアは、火を拳の外へ広げず、接触する正面へ集めた。

 ネアはその中心を受けず、さらに早く身体を横へ動かした。

 火の形を変えるだけでは、相手へ届くまでの距離が埋まらない。

 シアは別の接近方法を選んだ。


◆ 届く寸前


 シアは前へ飛び出した。

 ネアが動く。

 それを見ても、今度は最後まで加速しなかった。

 拳の届く少し手前で四翼の流れを前方へ回し、身体を空中で止める。


 先ほどまでは、速く近づくほど拳もそのまま通り過ぎていた。

 ネアが横へ逃げれば、振り切った腕を戻してから向きを変えなければならない。

 ならば、近づいたところで速度を残さなければいい。


 シアの身体が静止する。

 右拳を伸ばす代わりに、左手がネアの袖へ向かった。

 飛び抜ける勢いはない。目の前の位置を保ったまま、掴もうとする。


 ネアの反応が一瞬遅れた。

 相手の速度に合わせて逃げる方向を決めていたところへ、その速度が消えた。

 シアの左手が、衣装の袖をかすめた。


 ネアは黒い線を自分の背後へ通した。

 周囲の原光が流れ、身体を斜め上へ押し出す。

 シアの指が閉じた時には、そこに袖はなかった。


 シアが顔を上げる。

 今度は、届くところまで来ていた。

 それでも最後の一握りを外された。


 ネアは、シアが全速力で飛び込むとは限らないと理解した。

 速度を落としても相手の腕は届く。次に同じ位置へ逃げれば、そこへ追いつかれるかもしれない。

 最初に見た動きだけでは、すべてを予測できない。


 シアは止めていた身体を再び動かした。

 拳を振り抜くより、近くで位置を合わせる方がよい場合がある。

 ただし、ネアを捕まえるまでには至っていない。


 互いが戦い方を変えるたび、相手の逃げる場所も変わる。

 シアは、ネアが動き出す前の空間へ意識を向けた。

 次は、身体一つで追う必要はなかった。



※第51話「互いを消す」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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