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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第51話 互いを消す

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(二)原光の供給

◆ 直線の拳


 シアの右拳が、ネアの顔へ迫った。

 飛び出した瞬間、四翼の後方へ炎が噴き出している。自由飛行だけでも近づけたが、加速するためにさらに火を使った。

 地面を蹴らず、空中から直接放たれる一撃だった。


 ネアは拳へ手を出さなかった。

 身体を右へ滑らせる。右拳が、先ほどまで顔のあった場所を通り過ぎた。

 風圧に長い袖が引かれる。


 シアは拳を振り抜いた姿勢のまま、左の四翼へ火を流した。

 空中で身体が回る。

 その回転を使い、今度は右脚でネアの胴を狙った。

 地面へ着地して構え直す時間はいらない。拳から蹴りへ、移動した速度を残したままつなげられた。


 ネアの周囲へ黒い線が伸びた。

 蹴りにまとわりつく炎の外側が、わずかに下へ引かれる。

 しかし、脚そのものの向きはほとんど変わらない。

 ネアは自分の位置も後方へ移し、踵が届く直前に間合いから抜けた。


 蹴りは衣装の裾をかすめて通り過ぎた。

 シアが踏みとどまろうとしても、そこに地面はない。

 代わりに四翼の流れが身体を止める。


 ネアは横へ間合いを開いた。

 シアはすぐに正面へ向き直る。

 どちらも地面を蹴らず、崩れた姿勢を取り戻すのに落下を待つ必要もなかった。


 拳を正面から受ければ、そこへ重ねられた火まで受けることになる。

 ネアはそうしなかった。

 シアも、避けられたからといって攻撃を中断しない。


 最初の一撃で、互いの戦い方だけは明確になった。

 赤は近づく。黒は受けずに外す。

 シアがもう一度前へ出た時、ネアはすでに次の逃げ道へ身体を動かしていた。


◆ 空中の間合い


 シアが追う方向を変えるたび、ネアは高さをずらした。

 右へ抜けると見せて下へ沈む。シアの拳が下を向いた瞬間には、黒い翼が斜め上へ移っている。

 地上であれば、踏み込める方向には足場の制限がある。今の二人には、その制限がなかった。


 シアは炎の噴射で無理に曲がった。

 大きく回り込むより、短い軌道を何度も折って接近する。

 ネアは真正面から逃げ続けなかった。シアの移動方向が決まる寸前を選び、そこから外れる。


 一度、シアの拳がネアの左側へ伸びた。

 ネアは身体を下げる。

 だがシアは拳を途中で止め、肘を曲げたまま自分の身体を下へ運んだ。

 打撃を伸ばして追うのではなく、身体ごと位置を合わせる。


 ネアの目の前へ、曲げた肘が来た。

 黒い四翼が一度大きく広がり、ネアの身体を斜め後ろへ送った。

 肘の先が羽衣の端をすり抜ける。

 ここまで近づかれるとは、ネアも予想していなかった。


 だが、完全に捉えられたわけではない。

 シアが体勢を整えるより先に、ネアは上下を入れ替えて距離を取る。

 肘を振ったシアの方もすぐに反転したが、次の一撃へ移るにはわずかな間が必要だった。


 空中には壁も足場もない。

 だから、相手を端へ追い詰めるという考えが通用しない。

 シアはそれを感じ取りながらも、接近をやめなかった。


 ネアも、距離を取り続けるだけでは終わらないと知っていた。

 シアの直線的な加速は速い。動き出す瞬間を外しても、その次に四翼が向きを変えればすぐ追いつかれる。

 移動だけでなく、その加速を生む流れへ手を加える必要があった。


◆ 原光の供給


 ネアはシアの四翼へ目を向けた。

 翼の面だけではない。その外側から、原光が絶えず流れ込んでいる。

 シアが炎を放つたび、減った分が周囲から補われていた。

 ならば、補われる前の流れを動かす。


 ネアが指先を横へ払う。

 黒い細線がシアの進路へ伸び、四翼へ入ろうとする原光を左右へ分けた。

 火の精霊力へ直接触れるより手前の場所だった。


 シアが踏み込むように前へ加速する。

 しかし、伸びるはずの速度がわずかに鈍った。

 四翼へ入る原光が減っている。

 後方へ火を放つ流れが、いつもより細い。


 ネアは距離を測った。

 相手の腕が届く前に、その外側へ抜けられる。

 先ほどまでより、時間に余裕ができていた。


 そこでネアは、左右へ分けた原光をさらに外へ流した。

 奪って自分のものにしたのではない。シアが取り込もうとした場所から、別の方向へ逃がしただけだった。

 それでも進路には一時的に薄い領域ができる。


 シアは空中で止まりかけた。

 だが、すぐに赤い四翼が開き直る。

 速度が落ちたことを理解したように、身体の後ろへ別の火が集まった。


 ネアの操作は、確かに効いた。

 外側の供給を減らせば、シアの加速は鈍る。

 問題は、その状態がどこまで続くかだった。


 ネアは黒い線を維持しながら、自分の身体をさらに横へずらした。

 今度こそ十分に離れたはずの間合いへ、赤い光が再び伸び始めていた。



※第51話「互いを消す」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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