(一)同じ結論
◆ 二つの光
赤い光が、山脈の上を一直線に進んでいた。
別の方角からは、黒い光が近づいている。
どちらも街道へ沿わず、山を避けることもしない。遠くに感じる強い存在へ向け、最短の線を飛んでいた。
シアの背中には四枚の赤い翼が開いている。
七個の赤い分霊核が、身体の周囲を一定の間隔で巡っていた。回収したばかりの五個には、まだ空いた場所がある。四翼は飛行を続けながら原光を取り込み、その器へ少しずつ蓄えていた。
力を集めるために速度を落とす必要はない。核だけを別に運ぶ必要もなかった。
黒い光の中心にも四翼があった。
ネアの周囲を七個の黒い分霊核が巡る。長い袖と羽衣が、羽ばたかない翼の流れに合わせて漂っていた。
先ほどまで二人がいた土地は、すでに遠い。
二人の速度はほぼ等しかった。
距離が縮むほど、互いに感じる力ははっきりしていく。
分霊核を探した時の空白ではない。そこには、外界の原光を絶えず取り込み、動き続けている何かがあった。
しかも、つながっている。
精霊力を飛ばして結んだ線はない。どちらかが念話を送っているわけでもない。
それでも、以前から触れていたもののように感じる。
シアは速度を緩めなかった。
ネアも同じだった。
何者かは、見れば分かる。見た後にどうするかを、今から考える必要はなかった。
山と山の間へ、幅の広い谷が現れた。
赤と黒の光が、その上空へ同時に入っていった。
◆ 目の前の存在
谷の上で、シアが相手の姿を捉えた。
黒に近い長い髪。白銀の衣装。肩の周りを流れる羽衣。
その背中から、半透明の黒い四翼が斜めに開いている。
七個の黒い玉が、翼の循環から外れずに浮いていた。
ネアからも、赤い四翼が見えた。
白い軽装をまとった少女。赤橙色の髪。その左右に漂う、七個の赤い玉。
羽ばたく様子はないのに、赤い姿は減速しながら空中へ止まろうとしている。
二人の距離が急速に縮まった。
このまま進めばぶつかる位置で、赤と黒が同時に静止する。
地上には川が走り、両側の山腹は遠い。二人を支える足場は、どこにもなかった。
出発した場所から、それぞれが進んだ距離もほとんど同じだった。
再会した場所は、まさしく中間地点だった。
シアは黙って相手を見た。
ネアも言葉を発さない。
四翼。七個の器。外へ広がった循環。そこまで似ていても、流れている力は違っていた。
シアには自分の火が分かる。
赤い器はすべて火の流れへつながっている。しかし目の前の黒い翼には、その火がない。
ネアが感じているのは月の流れだった。黒い器はすべて自分とつながっているのに、赤い翼はそこへ属していない。
姿には、見覚えがあるように思えた。
だが、その感覚は相手の名へ届かなかった。顔や衣装を見ても、今ここで判断すべきこととして浮かぶのは属性の違いだけだった。
つながりは、確かにある。
けれど同じ存在ではない。
二人は無言のまま、その違いを確かめていた。
◆ 同じ結論
シアは相手の周囲を巡る七個の器を数えた。
ネアも赤い七個を見ていた。
相手は弱くない。四翼を開き、自分と同じ数の分霊核を従えている。周囲の原光を取り込む速さも、身体を維持する流れも、自分とよく似ていた。
だからこそ、無視できなかった。
自分ではないものが、これほどの力を持っている。
しかも、どこかでつながっている。
つながっているのなら同じもののはずだ。ところが、その属性も、巡る力も異なっている。
シアの中で、古い欲求が答えを出した。
火の王は一つでよい。
自分以外の王は必要ない。
向こうにいるものが何者であっても、その判断は変わらない。
ネアも同じ結論へ至った。
月の流れへ含まれないものが目の前にいる。自分と同じ高さへ届く力を持ち、なおかつ自分ではない。
残しておく理由が見つからなかった。
二人とも、名前を尋ねなかった。
相手がなぜ自分とつながっているかを確かめることより、その相手を消すことが先になった。
そこに矛盾があると感じられても、判断を止めるほどではなかった。
シアが右の拳を握る。
背中の四翼へ赤い光が集まった。
ネアは右手を下げたまま、黒い翼から幾筋もの細い線を伸ばす。
周囲の原光が、二人の間で別々の方向へ動き始めた。
消す。
合図はなかった。
先に敵意を向けられたから応じたのでもない。
二人はそれぞれの意思で、まったく同時に動いた。
谷の上で、赤い光が直線となり、黒い光がその進路から滑るように外れた。
※第51話「互いを消す」は全六回です。
続きます。
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