(三)残された大地
◆ 空を直進する
分霊核の位置は、最初の探索で把握していた。
あとは、そこへ移動すればいい。
シアは街道へ降りず、山の上を進んだ。
谷が深くても迂回しない。
斜面が急でも、足場を探さない。
かつては炎を噴いて跳ぶたび、次にどこへ着地するか決めなければならなかった。
今の四翼は、飛びながら止まり、止まったまま向きを変えられる。
障害物があれば、その上へ位置を移すだけだった。
シアの下に、かつて人が通ったらしい細い道が見えた。
岩を避け、川を渡れるところまで回り込む道だ。
その長い曲線は、上空から見ると遠回りにしか見えない。
以前なら、その道が必要だった理由も考えたはずだった。
ネアも西の空を進んでいた。
最初の黒い分霊核を取り戻してから、進む方向を次々に変えている。
残る反応の位置に合わせ、山を越え、川を横切る。
黒い三個の核は四翼の循環から外れず、ネアの動きへ遅れずに付いてきた。
地上では、風に流された雲が谷へ溜まっている。
ネアはそこを抜けた。
湿った風が袖を揺らしても、飛ぶ方向は変わらない。
周囲から取り込む原光が続く限り、休む必要を感じなかった。
どこかへ帰るために飛んでいるわけではない。
二人とも、目の前にある空白を埋めるために移動していた。
その途中へ何が現れるのかは、まだ分からない。
上空を進めることは、途中にいるものへ出会わないという意味ではない。
山の向こうから別の精霊力が広がることも、二人の速さを止めるとは限らなかった。
◆ 大地の王
シアが山脈の上へ差しかかった時、大地が動いた。
谷の底が持ち上がる。
斜面が折れ、岩盤が何枚もの壁となって空へ突き出した。
シアの進路を塞ぐために、山そのものが形を変えている。
正面に人の形が現れた。
土の精霊王だった。
周囲の大地へ送り込む力が荒い。
必要な場所だけを動かすのではなく、届く範囲を次々に隆起させている。
「大地を動かす」
土の精霊王が両腕を広げる。
シアの前で、岩壁がさらに高くなった。
「山を作る。陸を沈める。動かさなければ生命は増えない」
以前と同じ役割の言葉だった。
だが、目の前を高速で進むシアへ説明しようとはしない。
自分の役割を実行し、妨げるものを押し潰そうとしている。
シアは土の精霊王が光の影響を受けている可能性を理解した。
それでも、足を止めなかった。
別の王が、前にいる。
自分の進む場所を塞いでいる。
ならば消す。
シアが右手を前へ伸ばした。
地形がどれだけ持ち上がっても、その中心にいる王の位置は動かない。
岩壁をすべて砕き、山全体を燃やす必要はなかった。
進路とその奥にいる相手を一本につなぐ。
四翼から流れた火が、赤白い一本の線となる。
最初の岩壁の中央が抜けた。
二枚目も、三枚目も同じ場所を貫かれる。
土の精霊王が地面へ手を向けた。
「まだ、大地を――」
言葉は最後まで続かなかった。
赤い火が岩壁の奥から現れ、土の精霊王の身体を正面から貫く。
人の形が崩れ、大地へ広げていた精霊力も戻る場所を失った。
土の精霊王は、一撃で消滅した。
シアは、岩壁の中央に開いた穴をそのまま通過した。
◆ 残された大地
シアの赤い光が遠ざかっても、山は元へ戻らなかった。
土の精霊王が持ち上げた岩盤は、その高さのまま残っている。
谷の一部は埋まり、斜面の途中には新しい崖ができていた。
精霊王が消えれば、その者が使っていた力の流れは止まる。
だが、すでに動いた岩や土まで消えるわけではない。
氷の精霊王が残した氷と同じだった。
晶の精霊王が作り終えた結晶とも同じだった。
山肌に刻まれた細い道が、途中で途切れていた。
押し出された土砂が川沿いへ流れ込み、水の向きも少し変わっている。
王を消す一撃は短かったが、王がそれまでに動かしたものの変化は残った。
道の続きを探そうとすれば、持ち上がった岩盤を大きく回り込まなければならない。
山を越える人間にとって、その変化は簡単には済まないはずだった。
シアは振り返らない。
壊れた道を見下ろしもしない。
前方には、次の火の分霊核がある。
そこへ到着することだけが、今の行動を決めていた。
土の精霊王が何を守ろうとしていたのか。
山の向こうに村があるのか。
持ち上がった崖で困る者がいるのか。
シアには確かめるための時間も、確かめるべき理由も必要に思えなかった。
力を使えば、結果が残る。
その結果を誰かが引き受けることもある。
以前ならセトが立ち止まり、ネアが周囲の流れを確かめ、シアは面倒だと言いながら手伝ったかもしれない。
今は一人だ。
そして、何も考えずに先へ進めてしまう。
その違いに気づく者は、ここにはいなかった。
※第50話「七つの分霊核」は全七回です。
続きます。
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