(二)人の手を経た核
◆ 岩の中
シアが最初に向かったのは、崩れた岩山だった。
人間の通る道からは外れている。
風雨で削れた斜面の下に、大小の岩が折り重なっていた。
赤い分霊核は、その奥にある。
外からは何も見えない。
シアは岩山の前で止まった。
四翼を通じて位置を確かめる。
岩の表面から分霊核まで、真っすぐに進むための細い道だけが必要だった。
右手を向ける。
赤白い火が一本、岩へ伸びた。
山を崩すほどの爆発は起こらない。
触れた場所だけが高熱にさらされ、奥へ向かって穴が延びていく。
分霊核の直前で、火は止まった。
強く焼けば岩全体を崩すこともできる。
だが、欲しいのは岩の破片ではなく、その奥にある器だった。
火の強さではなく、止める位置だけを正確にそろえる。
穴の奥に、小さな赤い玉が見える。
表面は滑らかだった。
誰かが削った跡はない。
長い間そこに埋まっていたらしいが、周囲の岩と同じものではなかった。
シアが指を曲げる。
赤い玉が穴の中を通り、空中へ出てきた。
内部に大きな精霊力はない。
探索のために放ったわずかな力が吸収されているだけだ。
四翼から細い流れが伸びる。
赤い玉の中へ入り、外へ巡る循環へつながった。
三個目の分霊核が、シアの左右にある二個へ加わる。
力が三倍になったわけではない。
使える器が一つ戻った。
その器へ、これから力を蓄えられる。
シアは岩山を見下ろさなかった。
次の空白は、すでに分かっている。
新たな一個を伴い、再び空へ進んだ。
◆ 黒い器
ネアが向かった先には、古い荷物置き場があった。
倒れた棚が通路を塞ぎ、木箱や空の壺が重なっている。
雨を防ぐ屋根も一部が崩れていた。
月の分霊核は、残された荷物の奥にある。
人間の目なら、どの箱へ入っているか分からない。
ネアには位置が分かっていた。
棚の下にある小箱、その中だ。
ほかの宝石も一緒に入っているらしい。
ネアは荷物置き場の入口へ降りた。
黒い四翼から細い線を伸ばす。
倒れた棚をわずかに持ち上げ、引っかかっていた箱を横へずらした。
物そのものを消したわけではない。
重なった物の位置を変え、奥へ通る隙間を作っただけだった。
小箱のふたを開く。
いくつかの石がある。
色も形も違い、値札らしい紙が添えられたものもあった。
小箱を選んでここへ運んだ人間がいたのだろう。
けれどネアには、その人間が宝玉へ何を期待していたのか分からない。
分からなくても、器を取り出す操作に支障はなかった。
その中の黒い一個だけが、ネアの精霊力を吸収している。
ネアが手を引く。
黒い玉が箱から離れ、掌の前へ浮かび上がった。
ふたは開いたまま、残りの宝石もそのままだ。
誰が集めたかを調べる理由はなかった。
黒い玉が四翼の循環へ入る。
空だった器へ細い光が入り、三個目の分霊核となった。
ネアは、崩れた棚を元へ戻さなかった。
何かを奪ったという考えも浮かばない。
自分と同じ月の器を、元の場所へ戻した。
今のネアには、それだけが確かなことだった。
◆ 人の手を経た核
シアの二つ目の反応は、使われなくなった建物の中にあった。
壁には古い看板が残っている。
窓の下に細長い台があり、その上には宝石を並べた跡があった。
床に落ちている石はどれも、火の分霊核ではない。
反応は奥の箱から返ってこなかった。
周囲の物へ触れた力だけが戻り、その一点で消える。
箱を開けると、赤い玉が布に包まれていた。
布の隣には、細い道具と傷のついた石片が置かれている。
人間はこの玉を、ほかの宝石と同じように扱おうとしたのだろう。
削れず、加工できず、それでも捨てずに保管した。
道具の刃先には細かな傷がある。
玉を削ろうとした時にできたものかもしれない。
空の器に値段を付け、飾るための工夫を重ねた人間がいた。
シアには、そういう事情も理解できた。
自分も以前なら、こうした店を回って持ち主へ尋ねたはずだった。
今は誰もいない。
もし持ち主が戻ってきたとしても、何を説明するつもりもなかった。
玉だけを取り、布を残す。
赤い分霊核が四翼へ接続される。
これで四個になった。
新しい器の中は空に近い。
古い記憶や誰かの意思が眠っているわけではない。
そこにあるのは、精霊力を蓄えるための場所だけだった。
シアは建物を出た。
戸口のそばに、宝石を見た人間が値段を書いたらしい板が落ちていた。
以前のシアなら、その数字の意味をネアへ尋ねたかもしれない。
今は拾わない。
次の空白へ向けて飛び立つ時、建物はすでに視界の端へ流れていた。
※第50話「七つの分霊核」は全七回です。
続きます。
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