(一)五つの空白
◆ 広がる火
シアは森の上に浮かんでいた。
焼けた枝の向こうには、重の精霊王が落とした岩が転がっている。
樹の精霊王も重の精霊王も、もういない。
かつてシアの逃げ道を奪った森だけが、動かなくなって残っていた。
背中の赤い四翼は開いたままだ。
周囲の原光が翼へ入り、身体と二個の分霊核を通って外へ戻る。
傷を治し、二人の王を消した後だというのに、力は減っていない。
むしろ、少し前より身体が満たされている。
シアは北の空を見た。
何のためにここへ来たのかは覚えている。
分霊核を探すためだ。
セトを助ける力が必要で、ネアと別れて山小屋を出た。
寝台に横たわるセトの姿も、最後に交わした約束も忘れていない。
だが、急いで帰りたいという気持ちは出てこなかった。
セトの回路が傷ついていることは、記憶の中の事実になっている。
今のシアを動かしている理由は別にあった。
分霊核は、自分と同じ火の器だ。
世界のどこかに離れたまま残っている。
だから集める。
それ以上の理由は必要ないように感じた。
シアは手元の分霊核を見た。
二個。どちらもまだここにある。
探すべきものは、それ以外の器だった。
シアが両腕を開く。
二個の赤い分霊核が左右へ動いた。
翼を巡る精霊力が薄く広がる。
熱は生まれない。
炎にも変わらない。
ただ、火の精霊王の力が、森の外へ静かに伸びていった。
◆ 五つの空白
森に触れた精霊力が返ってくる。
折れた枝、土、岩、水のある場所。
それぞれ違う形で、触れたことを知らせてきた。
広がる流れは山を越え、遠い平野や建物にまで届く。
少し前に分霊核を探した時も、方法は同じだった。
ただし、届く範囲が違う。
以前は、宝玉がどの町へ運ばれたかを人間に聞かなければ、探し始める場所さえ決められなかった。
今は、四翼の循環を通じて広げた力が、はるか遠くからも返ってくる。
その中に、返らない場所があった。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
五つ。
シアの左右にある二個も、触れた精霊力を吸収している。
だが、それらの位置は最初から分かっている。
遠くに生じた五つの空白は別だった。
周囲にある物の反応は返るのに、その一点だけが抜け落ちている。
大きな岩の陰で反応が弱くなった場所とも違う。
離れた周囲からは返ってくるのに、中心だけが力を吸収している。
森の中で調べた時より、空白の輪郭がずっと明瞭だった。
シアは五か所へ意識を向けた。
岩の内部らしいもの。
人が物を集めた場所。
水に近いところ。
そのほかにも、離れた場所へ一つずつ。
何に入っているかまで、すべて見えるわけではない。
それでも、どの方角に、どれほど離れているかは分かった。
「全部ある」
驚く声ではなかった。
五個あるなら五個取りに行けばよい。
まず一番近い空白へ進む。
シアはそう決めると、四翼をわずかに傾けた。
身体が加速する。
森の上から、赤い光が消えた。
◆ 広がる月
ネアは凍った大地の上空で静止していた。
眼下では、透明な結晶が氷の柱の間から突き出している。
氷の精霊王と晶の精霊王を消した後も、二人が作り終えたものは残っていた。
凍った岩も、砕けた結晶も、その場にある。
黒い四翼には、周囲の原光が流れ込み続けている。
二個の黒い分霊核も、すでに同じ循環に入っていた。
ネアは山小屋から西へ来た理由を覚えている。
残る月の分霊核を探すためだった。
けれど、どこへ向かうかはまだ決めていなかった。
シアが鍵を開けた時の、あの異様な感覚も覚えている。
しかし、思い出せることと、今それを気にかけることは別だった。
まず自分の器を集める。それ以外へ判断を向けなかった。
離れている器を集める。
その考えが浮かぶと、迷いはなくなった。
ネアは片手を前へ出し、月の精霊力を薄く広げた。
凍った大地を越え、結晶の群れを抜け、その先の山へ届く。
四翼の循環が広がった力を支え、以前より遠い場所の反応まで伝えてくる。
冷えた土にも、古い石壁にも触れた。
ネアは一つずつ調べなかった。
必要なのは、返ってこない場所だけだった。
そこに、五つの空白がある。
黒い分霊核が、放った力を吸収している。
「そこですか」
ネアは五か所の位置を確かめた。
火の分霊核がどこにあるのかは分からない。
分かるのは、月の分霊核だけだ。
それで困ることもなかった。
黒い四翼が傾き、ネアの身体は凍結した土地から離れていった。
※第50話「七つの分霊核」は全七回です。
続きます。
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