(四)見上げる人々
◆ 残る器
次の赤い分霊核は、川底の石の間にあった。
シアは水面へ片手を向け、流れを押し分けるように細い火の道を作った。
核へ熱を当てない場所で止める。
小さな赤い玉が、川の底から空へ上がった。
五個目だった。
さらに離れた場所では、崩れた塔の壁の中から六個目を取り出した。
四翼へつないだ瞬間、残る空白は一つになった。
最後の反応だけは、まだ先にある。
ネアも別の方向で器を増やしていた。
石組みの隙間へ落ちていた黒い玉を取り出し、四個目とする。
次の一個は水辺の土砂に埋もれていた。
周囲の流れを分け、器を傷つけないように引き寄せる。
五個目が黒い循環へ入った。
六個目は、崩れかけた橋の石の間に挟まっていた。
ネアは橋を壊さず、支えになっていない小石だけを動かした。
黒い玉を外へ引き出すと、元の石を戻すことなく先へ進んだ。
壊す必要がなければ壊さない。
それは親切だからではなく、余計な力を使う理由がないからだった。
二人とも六個になった。
だが、新しく手に入れた核の中はまだ空に近い。
四翼が取り込む原光は、身体と核を巡りながら少しずつ蓄えられていく。
数をそろえることと、蓄えを満たすことは別だった。
シアは最後の反応へ向かう。
その方角には、人間の町があった。
残る一個の位置は町の向こうだ。
城壁や街道を探す目的で来たわけではないが、最短の線はその上を通っていた。
◆ 町
山を越えると、平野の先に外壁が見えた。
門の手前には街道が伸び、荷車が列を作っている。
壁の内側には家々の屋根が並び、中央の広場から人の声が上がっていた。
洗った布を干した家がある。
門のそばでは水桶を持つ者が立ち止まり、荷車の列が動くのを待っていた。
朝から続いている暮らしの途中なのだろう。
シアが知る、普通の人間の町だった。
最後の分霊核は、この町の向こうにある。
町へ寄る必要はない。
少し横へずれれば、建物の上を通らずに進むこともできる。
だが、避ける理由が見つからなかった。
シアは最短の線を保ったまま、町へ近づいた。
屋根の形が見えるほど低いところまで来て、初めて速度を落とす。
家がある。
人間がいる。
子供も、大人も、荷車を引く者もいる。
どれもシアではない。
精霊王とは違う。
原初の知識は、そこに集まる力が自分のものではないことを伝えてくる。
人間が精霊王ほど強くないことも分かる。
だからといって、残すべきだとは感じなかった。
別の王を消した時と、同じ答えが浮かんだ。
自分ではないものがある。
消せばよい。
シアは町の手前で止まった。
止まった理由は、攻撃をためらったからではない。
眼下に集まるものを、まとめて消す位置を選ぶためだった。
赤い四翼が静かに広がる。
六個の分霊核が、シアを囲むように位置を変えた。
七個目を集めるより先に、今あるものを消してしまう。
そんな判断が、何のためらいもなく成立していた。
◆ 見上げる人々
門の脇にいた見張りが、空を指さした。
赤い四翼と、その周囲を漂う六個の玉が見えたのだろう。
見張りが何か叫ぶ。
近くにいた者たちが一斉に空を見上げた。
荷車の列が止まる。
馬を引く男が手綱を引き、人を門の内側へ押し込もうとする。
門を閉じようとする兵士もいたが、まだ街道には人が残っていた。
簡単には閉められない。
広場では店先の布が風に揺れた。
売り物を抱えて建物へ入る者がいる。
何が起きているのか分からず、空を見たまま立ち尽くす者もいた。
町にいる者すべてが、同じ速さで逃げられるわけではない。
シアには彼らの声が届いていた。
しかし、その言葉を聞き分けようとはしなかった。
恐れているのか、怒っているのかを知る必要もない。
赤い光がシアの掌へ集まる。
六個の分霊核にも、同じ流れが生まれた。
一本ずつ狙いを付けなくても、町全体を覆うことはできる。
そのための力は十分にある。
壁が崩れる。
家が燃える。
そこにいる人間も消える。
何が起こるかは、はっきり分かっていた。
それでも、消してはいけない理由は出てこなかった。
シアが掌を町へ向ける。
その時、外壁の外れにある小さな空き地で、別の動きが目に入った。
人の流れから外れた場所に、一人だけ残っている。
手に、細長い木の棒を持っていた。
※第50話「七つの分霊核」は全七回です。
続きます。
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