(二)逃げる場所
◆ 冷気と結晶
冷気が全方向から迫る。
地面だけではない。
空気中の水分が凍り、ネアの周囲へ薄い氷の膜を作る。
ネアは右手を横へ動かした。
銀青色の線が広がる。
正面から来た冷気の流れが曲がり、ネアの左側を通り過ぎた。
左から回り込んだ力は、一個目の分霊核が受ける。
黒い玉の周囲へ銀青色の輪が生まれ、冷気を吸収した。
足元から、結晶の槍が伸びる。
二個目の分霊核が下がった。
結晶を作ろうとしていた精霊力へ触れ、その流れを止める。
新しい槍は途中で成長を止めた。
ネアは、その横を通る。
次の一歩を置こうとした場所に、すでに別の結晶があった。
今、作られたものではない。
力を止める前に完成していた結晶である。
ネアは進路を変えた。
その先へ冷気が回り込む。
曲げる。
吸収する。
新しい結晶を止める。
すでにある結晶を避ける。
二個の分霊核を使っても、処理しなければならないものが減らない。
氷の精霊王は周囲全体を冷やし続ける。
晶の精霊王は、止められるまでに作った構造をその場へ残す。
一度止めても、次の場所から始まる。
しかも、二人は互いの邪魔を気にしていなかった。
冷気によって結晶の表面が凍り、ひび割れる。
晶の精霊王は、割れた結晶を捨てず、破片から新しい構造を作る。
氷の精霊王は、その結晶ごと周囲を冷やす。
力を合わせているのではない。
互いの結果さえ、自分の役割を広げる材料にしている。
だから止まらない。
◆ 残る防壁
晶の精霊王の前に、透明な壁が作られた。
一枚ではない。
薄い結晶の層が重なり、その間を別の結晶が斜めにつないでいる。
ネアは銀青色の線を伸ばした。
壁へ流れ込んでいる精霊力を吸収する。
新しい層の形成が止まった。
だが、すでに完成した壁は消えない。
ネアの力は、結晶そのものを無かったことにはできなかった。
壁の向こうで、晶の精霊王がさらに地面へ力を流す。
別の場所から結晶が伸び始めた。
「相変わらず、厄介ですね」
ネアは小さく息を吐いた。
以前は、シアの火で防壁を壊した。
ネアが追加の形成を止め、その間に極炎が既存の結晶を吹き飛ばした。
今、シアはいない。
ネアだけでは、作られるものを止められても、作られたものをまとめて壊せない。
氷の精霊王が両腕を広げた。
空気が白く染まる。
ネアの周囲へ浮いていた水分が、一斉に凍った。
細かな氷の粒が、銀青色の線へ付着する。
線の動きが鈍る。
ネアは力を強めて氷を外した。
その間に、足元の結晶が伸びる。
長い裾が結晶へ触れた。
結晶が布を巻き込み、そのまま上へ成長する。
ネアは裾を引いた。
布が裂れる。
身体を後ろへ下げる。
そこへ、氷の塊が落ちてきた。
◆ 逃げる場所
一個目の分霊核が氷を受けた。
吸収しきれなかった部分が砕け、ネアの肩へ当たる。
身体が横へ流された。
着地した場所から、結晶が伸びる。
ネアは短く浮き、結晶の先端を避けた。
月の力で落下を緩めることはできる。
短い間なら、身体を浮かせることもできる。
だが、シアのように炎で一気に加速することはできない。
空中で方向を変える速さも足りなかった。
氷の精霊王が、浮いたネアへ手を向ける。
冷気が上から押し寄せた。
晶の精霊王は、ネアの着地点へ結晶を並べる。
降りれば貫かれる。
空中に残れば凍らされる。
ネアは二個の分霊核を左右へ開いた。
一個が冷気を曲げる。
もう一個が地面へ伸びる力を吸収する。
ネア自身は、細い線を下方へ伸ばした。
結晶の少ない場所を探す。
一か所だけ空いている。
そこへ身体を落とす。
足が地面へ触れる直前、晶の精霊王が指を動かした。
完成していた結晶の柱が倒れた。
新しく作ったものではない。
すでにあった柱を、横から押しただけだった。
ネアは身をひねる。
柱の先端が脇腹をかすめた。
長衣が裂ける。
白い肌の上に、銀青色の光が散った。
※第49話「下へ」は全六回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/




