(六)仕上がりつつあるもの
◆ 吸い取られる力
シアの髪から、赤い輝きが失われていく。
周囲に燃えていた火が、一斉に小さくなった。
セトの足元に残っていた炎も消える。
「シア!」
「剣を……離せ」
声が弱い。
シアは自分で魔剣をつかもうとした。
手に火が生まれない。
指先へ集まった赤い光まで、刀身へ吸われていく。
セトは白刃を作る。
グラウスの腕を斬ろうとする。
グラウスは剣をシアから引き抜き、後ろへ下がった。
白刃が空を切る。
支えを失ったシアの体が傾く。
セトは抱き止めた。
軽い。
もともと人間より軽かったが、今はさらに存在そのものが薄くなったように感じる。
赤黒い魔剣の中では、奪われた炎が激しく燃えていた。
◆ 仕上がりつつあるもの
グラウスは、倒れたシアを見下ろした。
「人間をかばうか」
赤黒い剣を持ち上げる。
「本格的に仕上がってきているようだな」
「さっきから、何を言っている」
セトがシアを支えながら睨む。
「何が仕上がる」
「今のお前たちに教える必要はない」
「答えろ!」
白刃が伸びる。
セトはシアを片腕で支えたまま、グラウスへ斬りかかった。
動きは乱れていた。
グラウスは避けることすらせず、魔剣で受けた。
白刃の力が吸われる。
刀身が細くなる。
「怒りで剣を振るうだけでは、私には届かん」
グラウスが白刃を押し返した。
セトの腕が上がる。
その腹へ、蹴りが入った。
セトはシアを離さないよう体を丸めた。
二人まとめて道へ倒れる。
◆ 立てないシア
「シア」
セトが呼ぶ。
シアは目を開けている。
意識はある。
だが、自分で立ち上がろうとしても、腕に力が入らなかった。
「火が……出ない」
「出さなくていい」
「まだ、戦える」
「立ててないだろ」
「セトも、立てていない」
「俺は立つ」
セトは地面へ白刃を突き、杖のようにして体を起こした。
脚が震える。
肩と脇腹から血が流れていた。
それでも、シアを背後へかばうように立つ。
グラウスは追撃しなかった。
「なぜ止まる」
セトが尋ねる。
「今なら俺たちを殺せるだろ」
「そうだな」
グラウスは魔剣の中に増えた火を見た。
「だが、今殺すのは惜しい」
◆ 今は殺さない
「惜しい?」
「そのイフリートは、まだ完成していない」
グラウスが言う。
「人間へ力を預けた。人間をかばった。だが、まだ足りない」
「何の話だ」
「いずれ分かる」
グラウスは赤黒い剣を鞘へ収めた。
「次に会う時まで、その少女を生かしておけ」
「お前に言われるまでもない」
「できれば、もっと信頼されることだ」
セトは白刃を構え直した。
「逃がすと思うか」
「追えるのか」
グラウスがセトの肩を見る。
白刃が揺れている。
形を保つだけでも限界が近い。
シアは地面に座り込んだまま、火を出すこともできない。
「今のお前たちでは、追うこともできん」
否定できなかった。
◆ 神剣よりも
グラウスは道の脇へ落ちていた大会賞品を拾った。
偽物の魔剣。
少量の精霊力が入れられただけの剣だった。
刀身を一度見て、道の外へ投げ捨てる。
「こんなものを魔剣と呼ぶとはな」
「お前は、魔剣を何だと思っている」
セトが尋ねる。
「意思を持たず、力だけを残す器だ」
グラウスは自分の赤黒い剣へ手を置いた。
「誰を信じるかも、誰へ力を預けるかも考えない。蓄えた力を、持ち主へそのまま渡す」
「だから分かりやすいのか」
「ああ」
グラウスはセトとシアを見る。
「神剣は面倒だ。力を持っていながら、使い手を選ぶ」
「神剣とは何だ」
「今のお前が知っても、扱えん」
それ以上は答えなかった。
※第8話「奪われた炎」は全七回です。
続きます。
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