(五)かばう炎
◆ 黒刃
セトは右手を伸ばした。
白刃ではない。
黒い剣が現れる。
「ほう」
グラウスが足を止めた。
「そちらも使えるか」
「お前だけじゃない」
セトは黒刃を構えた。
魔剣が精霊力を吸うなら、その術を崩す。
黒刃であれば、赤黒い剣へ干渉できるかもしれない。
グラウスが剣を振る。
赤い炎が放たれた。
セトは黒刃を当てる。
炎が触れた場所から崩れていく。
完全には消えない。
残った火が腕と肩をかすめた。
服が焼け、皮膚へ熱が走る。
それでも、正面から受けるよりは弱い。
「通じる」
セトは黒刃を握り直した。
グラウスは満足そうにうなずいた。
「だが、一本ずつでは遅い」
◆ 一本ずつ
グラウスの左手にある黒刃が消える。
代わりに、白い剣が生まれた。
高密度に集められた精霊力。
セトの白刃と同じ系統の剣だった。
「白刃まで……」
「両方使えると言っただろう」
右手に赤黒い魔剣。
左手に白刃。
グラウスは再び踏み込む。
セトは黒刃で魔剣を受けた。
触れた場所で、魔剣を包む火が乱れる。
だが、左から白刃が迫る。
セトは身を引く。
肩へ白い斬撃が入った。
血が散る。
黒刃で受ければ、魔剣への対処が遅れる。
魔剣を狙えば、白刃が届く。
セトには、同時に二本へ対応する方法がない。
「白刃と黒刃を持っていても、一本ずつしか出さない」
グラウスが言う。
「一族の教えをよく守っている」
◆ 切り替える隙
セトは黒刃を消した。
白刃を作る。
グラウスの白刃を受ける。
赤黒い剣から炎が放たれた。
白刃を消す。
黒刃を作る。
炎を崩す。
切り替えるたびに、短い隙が生まれる。
グラウスはそのすべてを狙っていた。
白刃を作る途中に、魔剣の柄が肩へ入る。
黒刃を作る前に、白い斬撃が脇腹をかすめる。
セトは後ろへ下がり続けた。
「セト!」
シアが前へ出ようとする。
「来るな!」
「一人では勝てない」
「分かってる!」
グラウスの白刃が振られる。
セトは自分の白刃で受ける。
魔剣が横から迫る。
避ける場所がない。
シアの小さな火が足元で弾けた。
セトの体が押され、魔剣の切っ先を避ける。
シアはまだ、後ろから支えていた。
◆ 狙われたセト
グラウスはシアを見た。
「その人間が傷つけば、必ず助けるか」
「当然だ」
「では、これはどうする」
グラウスの白刃が消えた。
赤黒い魔剣を両手で握る。
刀身から、大量の炎があふれた。
セトへ向け、正面から踏み込む。
速い。
これまでよりも、さらに深い一歩だった。
セトは黒刃を作る。
炎を崩す。
だが、魔剣そのものは止められない。
赤黒い刃が黒刃へ当たる。
衝撃で腕が上がった。
黒刃の形が崩れる。
グラウスはそのまま剣を振り下ろす。
セトの肩から胸へ斬り込む軌道だった。
避けられない。
◆ かばう炎
赤い影が、セトの前へ入った。
「シア!」
シアは背中をセトへ向けていた。
両腕を広げたわけではない。
ただ、グラウスとセトの間へ、自分の体を滑り込ませた。
赤黒い剣が、シアの肩口から脇腹へ斬り込む。
血は出なかった。
代わりに、傷口から大量の炎があふれた。
「――っ」
シアの体が大きく揺れる。
赤い光が、剣へ引かれていく。
火が細い流れとなり、傷口から赤黒い刀身へ吸い込まれていた。
「離れろ!」
セトはシアの体を抱き、後ろへ引こうとした。
だが、剣はシアへ食い込んだまま動かない。
グラウスが柄を握る。
魔剣の赤い光が強くなった。
※第8話「奪われた炎」は全七回です。
続きます。
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