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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第48話 原初のシア

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(七)沈む名前

◆ 戻る理由


 森が静かになった。


 樹の精霊王が伸ばしていた枝は動きを止めている。

 重の精霊王が浮かせていた岩も地面へ落ちた。


 シアは空中へ浮いたまま、二人が消えた場所を見下ろす。


 助かったとは思わない。

 勝ったとも思わない。


 別の精霊王が二人いた。

 だから消した。


 それだけだった。


 二個の分霊核が左右へ戻る。

 赤い四翼は外界から原光を取り込み、体外の流れを巡らせ続けている。


 樹を消した。

 重も消した。

 傷も戻った。

 飛び続けている。


 それでも、力が減った感じがしない。


 少し前までは、一歩動くたび残りを気にしていた。

 今なら、その違いへ驚くはずだった。


 シアは驚かなかった。


 当然のように感じた。


「何しに来たんだっけ」


 答えはすぐ出る。


 分霊核を探しに来た。


「なんで?」


 これも知っている。


 光の精霊王を倒すため。

 戦力を増やすため。

 セトを助けるため。


 全部、答えられる。


 なのに、さっきまで自分を動かしていた理由としては遠かった。


 知識として覚えている。


 それだけになり始めていた。

 目的が消えたわけではない。

 優先順位だけが変わった。

 分霊核より先に、周囲に残る別の王がいないかを確かめたい感覚が自然に浮かぶ。

 シアはその変化を、怖いとも思えなくなっていた。

 怖いと思えないこと自体を確かめようとしても、その疑問もすぐ別の流れへ押し流された。


◆ 遠くなる二人


 セト。


 名前が浮かぶ。


 寝台へ横たわり、目を開けない人間。

 自分とネアを壊さないために、極剣と絶剣で自分を壊した。


 戻ると言った。

 起きたら話すとも言った。


 覚えている。


 だが、その姿を思い浮かべても、さっきまで感じていた焦りが戻ってこない。


 セトが危ない。


 事実は分かる。


 心配だった。


 そうだったことも覚えている。


 今の自分が同じように心配しているのかと問われると、答えが遠い。


 ネア。


 別の方向へ分霊核を探しに行った月の精霊王。

 危険なら連絡すると約束した。

 必ず戻ろうとも言った。


 シアは一度だけ、念話を送ろうとした。


 樹と重は消した。

 自分は無事だ。


 それだけ伝えればいい。


 だが、意識を向けたところで止まった。


 ネア。


 月の精霊王。


 自分とは違う王。


 その認識が先に出る。


「……」


 念話を送らなかった。


 約束を忘れたわけではない。


 守る必要を感じる部分だけが、少しずつ遠くなっていた。


 セトもネアも、知らない相手になったわけではない。

 大切だったという記憶もある。

 ただ、「大切だから今すぐ戻る」という結びつきだけが弱くなっている。

 記憶を失うより、その方がシアには気づきにくかった。


 もしネアから今、念話が届けば返事はできる。

 セトが目の前にいれば名前も呼べる。

 それでも、自分から二人の方へ向かおうとする理由だけが薄い。

 その空白へ、原初の欲求が静かに入り込んでいた。


◆ 沈む名前


「私は、シアだ」


 声に出す。


 名前は消えていない。


 セトも覚えている。

 ネアも覚えている。

 山小屋も、分霊核探索も、光の精霊王も忘れていない。


 自分が何をしてきたのかも分かる。


 それでも、四翼を巡る原初の欲求の方が強い。


 ここに存在すべきものは、自分だけ。


 他の精霊王は必要ない。


 別の王が存在するなら、消せばいい。


「私は……シアだ」


 もう一度言う。


 言葉は正しい。


 だが、その名前の中にあったものが遠い。


 セトと話したい。

 ネアと戻りたい。

 分霊核を探したい。

 光の精霊王を止めたい。


 どれも覚えている。


 どれも、さっきまでの自分が望んでいたことだと分かる。


 なのに今、最も強く残っている欲求は一つだけだった。


 唯一でありたい。


 自分以外の王を残したくない。


 眠りの王に取り込まれかけても残った名前。

 創界から戻る時にも失わなかった名前。


 そのシアという名前は、消えてはいなかった。


 ただ、名前より古いものが、その上へ重なっていく。


 火の精霊王。

 唯一の火。

 一人の王。


 シアは赤い四翼を広げたまま、静かな森の上に浮いていた。


 名前はまだそこにある。


 その名前が、原初の欲求の下へ、ゆっくりと沈んでいった。


 消えたわけではない。

 呼べば、まだ返事はできる。

 ただ次に何かを選ぶ時、その名前より先に「唯一であること」が答えを出す。

 シア自身の声は、そのさらに奥へ押し込まれていった。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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