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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第48話 原初のシア

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(六)消すために

◆ 岩の向こう


 シアが振り返る。


 重の精霊王は見えない。

 森の外にある巨大な岩の陰へ隠れている。

 その前には、浮かせた岩が何層も並べられていた。


 一番外側の岩が地面へ落ちる。

 重くされた岩は深く沈み、土へ半分埋まった。

 その後ろへ次の岩が重なる。


 正面から押しても動かない壁。


 だが、見えないだけだった。


 四翼を通じて周囲へ広がった流れの中に、重の精霊王だけが持つ揺れがある。


 岩を軽くする。

 位置を変える。

 急激に重くする。


 そのたび、岩と精霊王をつないでいる力が動く。


「そこにもいる」


 何枚岩を重ねているか。

 どこで身体を隠しているか。

 その向こうで、さらに別の岩を浮かせていることまで分かる。


 重の精霊王が岩陰から腕を動かした。


 シアの周囲に浮いていた岩が、一斉に重くなる。


 上から落ちる。

 左右から押し潰す。

 足元の地面まで沈み始める。


 シアは避けなかった。


 四翼の周囲へ広がった赤い膜に岩が触れる。


 表面から砕けた。


 破片もシアを押す前に左右へ流れ、そのまま地面へ落ちる。


 少し前まで、あれを一つずつ壊して逃げていた。


 今は、攻撃として数える必要すらなかった。

 岩そのものが消えたわけではない。

 だが赤い膜へ触れた瞬間に砕け、シアへ力を伝える前に破片となって落ちていく。

 避けるという判断が、最初から必要なくなっていた。


◆ 一つの三門


 二個の分霊核が動く。


 一個がシアの右側へ。

 もう一個が左側へ。


 シアは中央で手を伸ばした。


 三つが横一列に並ぶ。


 以前なら、ここから三つを別々に扱う。


 シア自身の火。

 右側の核。

 左側の核。


 それぞれへ力を流し、狙いをそろえ、発射の瞬間を合わせる。


 今は違う。


 三つとも四翼を通じて同じ循環の中にある。


 右の核へ指示しない。

 左の核へも送らない。


 撃つ。


 そう思っただけで、三か所へ同じ流れが生まれた。


 シアの掌の前へ赤白い火が集まる。

 右側の分霊核にも同じ火が生まれる。

 左側も同じだった。


 三つの火は同じ大きさではない。

 シア自身の火が最も大きく、二個の分霊核は少し小さい。


 だが、流れは完全にそろっている。


 三つの攻撃を同時に作った感覚ではない。


 一つの攻撃が、三か所へ現れた。


 重の精霊王がさらに力を加える。

 重ねた岩が沈み、互いに押し固められていく。

 隙間が消えた。


 通常の炎なら表面を焼くだけで内部へ届かない。


 シアには、もう関係なかった。


 三つの火が同時に放たれた。

 右、左、中央の順番はない。

 どれか一つを合図にしたわけでもない。

 一つの流れが三つの出口から同時に現れ、そのまま同じ一点へ向かった。

 発射の瞬間を合わせるために意識を三つへ分ける必要もない。

 分霊核が二個増えたというより、同じ身体に出口が二つ増えた感覚に近かった。


◆ 消すために


 三本の赤い流れが岩の壁へ届く。


 中央が正面を貫く。

 左右の二本が斜めから内部へ入る。


 最初の岩が割れた。


 破片になる前に、その形が炎の中で消える。


 二層目。

 三層目。


 止まらない。


 重の精霊王は岩をさらに重くした。

 押し固める力と、貫こうとする火が正面からぶつかる。


 一瞬だけ、岩の壁が止まった。


 次の瞬間、三本の火が同じ場所で重なる。


 壁の中央へ赤白い穴が開いた。


 穴は外側へ広がり、巨大な岩を内側から消していく。


 岩陰にいた重の精霊王が見えた。

 腕を前へ出し、防御膜を重ねている。

 残った岩も急激に重くなり、互いを押し潰すほど固められた。


 三本の火は止まらない。


 防御膜へ届く。

 一枚目を貫く。

 二枚目も、その後ろも崩れていく。


「なぜだ……」


 重の精霊王が迫る火を見る。


「これだけ重ねた。これだけ重くした。なぜ、火が――」


 言葉が最後まで続く前に、三本の火が身体へ届いた。


 人の形が、岩と同時に赤い光へ飲まれる。


 爆発は起きなかった。

 岩の破片も飛ばない。


 火が通り過ぎた後には、大きく抉られた地面だけが残った。


 重の精霊王は消滅した。


 これは反撃ではない。

 防衛でもない。


 消すために消した。


 重の精霊王が最後に何をしようとしていたのか、シアは確かめなかった。

 防御を重ねた理由も、逃げようとしていたのかも、もう重要ではなかった。



※第48話「原初のシア」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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