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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第48話 原初のシア

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(三)唯一の火

◆ 古い知識


 鍵の向こうから流れ込んでくるものは、技の一覧ではなかった。


 翼をどう動かすか。

 原光をどう取り込むか。

 余った力をどこへ逃がすか。

 分霊核をどう循環へ入れるか。


 一つずつ考えて覚える必要がない。


 シアは最初から知っている。


 いや。


「最初から……?」


 自分が生まれた時から知っていたわけではない。

 セトと出会った時にも、この力を使えなかった。

 グラウスと戦った時にも、眠りの王と戦った時にも、こんな翼は出なかった。


 なのに懐かしい。


 新しい自分へ変わった感じがしない。

 逆だった。


 余計なものを重ねて今の自分になっていた。

 その外側を剥がし、もっと古いところへ戻っている。


「私は……イフリート」


 役割名が浮かぶ。


 火の精霊王。

 世界に火を置き、火を扱う王。


 その知識は以前から持っていた。


 だが、今浮かんだ「イフリート」は少し違った。


 シアという個人が火の精霊王を担っているのではない。


 火の精霊王という存在の上に、後からシアという名前が重なっている。


 そんな順番に感じる。


「違うだろ」


 シアは自分で否定した。


 その瞬間、森の向こうから樹の精霊王の力が広がった。

 別方向では、重の精霊王がまた岩を浮かせる。


 別の王。


 その感覚だけが、ひどく鮮明に引っかかった。


◆ 唯一の火


 別のものが、四翼の流れへ混ざった。


 知識ではない。

 命令でもない。


 もっと単純で、強い欲求だった。


 火は、一つでいい。


 世界に存在する火の王は、一人でいい。


 火を担うものは、自分だけでいい。


 そこまでは、役割の話にも思えた。


 だが、感覚はそこで止まらない。


 別の王がいる。


 樹。

 重。

 月。

 雷。

 風。

 水。


 自分ではない王が存在している。


 それが、邪魔だ。


「私は……唯一の火……」


 口から出た言葉を、シア自身が聞いた。


 違う。


 すぐに分かった。


 それは今までの自分が考えていたことではない。

 ネアを消したいと思ったことはない。

 リグも、フィオラも、ヴァルナも同じだ。


 精霊王が一人だけでいいなど、一度も考えたことはない。


「……違う! 私はシアだ!」


 名前を口にする。


 セトが付けた名前。

 眠りの王が精霊王たちを取り込もうとした時にも失わなかった。

 創界からも戻ってこられた名前。


 シアはシアだ。


 火の精霊王という役割だけではない。


 そのはずだ。


 だが、四翼を流れる力は止まらない。

 身体が満たされるほど、その奥から古い欲求まで浮かび上がってくる。


 火だけではない。


 ここに存在すべき王は、自分だけ。


 そんな感覚が、シアの名前の下から何度も押し上がってきた。

 押し返そうとするたび、「なぜ他の王を残すのか」という、今まで考えたこともない疑問が逆に返ってくる。


◆ 私はシアだ


「私はシアだ」


 もう一度言う。


 セトが浮かぶ。

 山小屋の寝台へ横たわり、目を開けない人間。


 戻ると言った。

 起きたら話すとも言った。


 ネアも浮かぶ。

 別の方向へ分霊核を探しに行った月の精霊王。


 必ず戻ろうと言った。


 覚えている。


 全部、覚えている。


「分霊核を探して……戻る」


 言葉にすれば、目的も出てくる。


 セトを助けるための戦力を増やす。

 光の精霊王を止める。

 そのために北へ来た。


 何も忘れていない。


 それなのに、樹の精霊王が視界へ入った瞬間、目的の重さが変わった。


 別の王。


 消す。


 考えるより先に、その答えが出る。


「違うって言ってるだろ……」


 シアは頭を振った。


 樹も重も、光の影響を受けている可能性がある。

 少し前まではそう考えた。

 話が通じなくなっていることも確認した。

 なら、倒すにしても、逃げるにしても、まず状況を見るはずだった。


 今は、そんな順番が面倒に感じる。


 別の王がいる。

 なら消せばいい。


 その方が自然に思えてしまう。


「光の精霊王に自我を感じられなかったのは、これのせいなのか?」


 答える者はいない。


 疑問を持てるだけのシアは、まだ残っている。


 だが、その疑問を考え続けたいという気持ちの方が、先に薄れていった。

 答えを知りたいというシアの好奇心より、目の前にいる別の王を消したい感覚の方が強くなっていく。



※第48話「原初のシア」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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