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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第47話 消えたくない

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(七)消えたくない

◆ 残してきたもの


 山小屋の寝台へ横たわるセトが浮かんだ。


 精霊回路は壊れている。

 フィオラが流れを止めないよう調整している。

 治ってはいない。

 助かる方法も分かっていない。


 シアは分霊核を探すため、そこを離れた。

 まだ一個も見つけていない。

 このまま消えれば、何も持ち帰れない。

 それどころか、戻ることさえできない。


 セトは、シアとネアを壊さないために、自分の身体を壊した。

 二人を精霊剣から戻した。

 安全制限を外した。

 自分の精霊回路が裂けると分かっていながら、光を身体へ通し続けた。


「勝手に壊れたくせに」


 シアは地面へ手をついたまま言った。


「私まで勝手に消えたら、何も言えないだろ」


 起きたら話すと決めた。

 私たちを戻したことを許していないと伝える。

 勝手に壊れたことも怒る。


 まだ何も言っていない。


 ネアとも戻ると約束した。

 危険なら連絡するとも言った。

 連絡はした。

 でも、戻ってはいない。


 シアが消えた後でセトが目を覚ましたら、誰がそれを言う。


 ネアが戻り、シアは消えたと伝える。


 セトはまた、自分のせいだと思う。

 シアを守れなかったと思う。


 今度こそ、本当に自分を壊してしまうかもしれない。


 ここで自分が消えたら、セトまで消えてしまうように思えた。


 山小屋を出る時、自分から「見つけたらすぐ戻る」と言った。

 フィオラは、大きな変化があれば念話を送ると言った。

 ネアとは、危険な場合も連絡し、必ず戻ろうと確認した。

 どれも大げさな約束ではない。

 数時間後には当たり前に果たすつもりだった言葉ばかりだった。


◆ それだけじゃない


 それは、自分が消えることより怖い。


 そう思った。


 でも、シアはすぐに引っかかった。


 セトが無事なら、それでいいのか。

 もし今、セトが目を覚ましたと誰かに教えられたら。

 精霊回路も治った。

 もう自分が戻らなくても大丈夫だと言われたら。


 なら、ここで消えてもいいのか。


「……嫌だ」


 答えは考える前に出た。


 セトに言いたいことがあるからだけではない。

 ネアと戻る約束をしたからだけでもない。

 分霊核を探しに来た役目が残っているからでもない。


 それらが全部終わっていたとしても嫌だ。


 まだセトと話したい。

 ネアとも話したい。

 また極炎になりたい。

 ご飯も食べたい。

 知らない場所にも行きたい。

 自分がまだ何をするのか、シア自身にも分からない。


 分からないまま終わるのが嫌だった。


 イフリートだから世界を守らなければならない。

 火の精霊王だから生き残らなければならない。

 そんな役割の話ではない。


 シアが、シアのまま、ここから先へ行きたかった。


「私は……」


 枝が目前まで迫る。

 岩の影が頭上を覆う。


 怖い。


 自分がなくなることそのものが、怖かった。


 生まれてから、知らないことばかりだった。

 人間の町も、食べ物も、剣も、旅も、セトやネアと過ごす時間も、最初はほとんど知らなかった。

 まだ知らないものがどれだけあるのかさえ分からない。

 その全部を、知らないまま終わりたくなかった。


◆ 消えたくない


 樹の精霊王が腕を上げた。

 周囲の枝が一斉にシアへ向く。

 根が地面を押し上げ、残った逃げ道を塞いでいく。


 重の精霊王の上空では、浮かんでいた岩が止まった。

 次の瞬間には重くなり、落ちてくる。


 二個の分霊核へ残っている力を確かめる。


 少ない。


 森を焼き切るには足りない。

 すべての岩を砕くこともできない。

 シア自身にも、二人を倒すほどの力は残っていない。


 一個目の分霊核から炎を広げる。

 迫る枝を焼く。


 二個目を上へ向ける。

 落下する岩を砕く。


 枝のすべては止まらない。

 岩のすべても壊れない。


 炎の向こうから、細く尖った枝が迫る。

 砕けなかった岩が、その上から落ちてくる。


 シアは片膝をついたまま、それを見上げた。


 消える。


 そう思った。


 セトのためだけじゃない。

 ネアとの約束のためだけでもない。

 分霊核を持ち帰るためでもない。


 自分が消える。


 シアという自分が、ここで終わる。


 嫌だった。

 怖かった。


 まだここにいたい。

 この先へ行きたい。


 誰かに命じられたからではない。

 世界を守る役割があるからでもない。

 ここで生き残れば何かを成し遂げられると計算したわけでもない。

 理由を並べるより先に、終わりたくないという感覚だけが残った。


「消え……たくない……」


 その言葉を口にした瞬間だった。


 頭の奥で、知識の鍵が外れる音がした。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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