(六)もう動かない
◆ 落ちる岩
森の外へ出る直前、上空で無数の岩が止まった。
次の瞬間、シアの前方へ雨のように落ちてくる。
一つ一つは大きくない。
だが、数が多い。
二個の分霊核を別々に動かす。
一個目で正面の岩を焼き砕く。
その隙間へ入る。
二個目で右上から落ちる岩を逸らす。
左から来た岩は、自分の炎で壊した。
肩から精霊力が漏れる。
さっき塞いだ場所がまた開き始めている。
炎の出力が安定しない。
砕ききれなかった岩が腕をかすめた。
身体が揺れる。
その隙に、森から根が伸びた。
足首へ巻きつく。
「離せ!」
炎を落とす。
根が焼ける。
同時に、重くなった岩がすぐ近くへ落ちた。
地面が大きく沈む。
シアの片脚が、崩れた地面へ取られた。
引き抜こうとする。
沈んだ土の下から、細い根が伸びた。
脚を貫く。
「あっ……!」
力が抜ける。
シアは倒れかけ、片手を地面へついた。
頭上から次の岩が落ちる。
一個目の分霊核を上へ向ける。
炎が岩を砕く。
二個目で脚へ絡む根を焼く。
シアは脚を引き抜いた。
立とうとした。
膝が折れた。
大きな岩一つなら、集中して砕ける。
今落ちている小さな岩の群れは、別の意味で厄介だった。
一つを壊しても隣が来る。
全部へ大きな炎を使えば、それだけで残りの力を持っていかれる。
大きな一撃より、結果としてシアの足を止める形の方が厄介だった。
◆ 戻す身体
肩は動けばいい。
脚は違う。
ここを戻さなければ、逃げられない。
シアは片膝をついたまま、脚へ精霊力を集めた。
貫かれた場所を塞ぐ。
失われた輪郭へ赤い光が集まり、欠けた部分を埋めていく。
足首。
膝。
脚全体へ力を通す。
形は戻った。
次に肩を見る。
完全には戻していない部分から、まだ少しずつ精霊力が漏れている。
「こっちは後だ」
脚へ回した量の方が大きい。
肩まで完全に戻せば、さらに消耗する。
光の精霊王との戦い。
極炎の修復。
セトの精霊回路を止めないための調整。
ここまでの逃走。
残っていた力は、確実に減っていた。
それでも脚さえ戻れば走れる。
「動け」
シアは立ち上がろうとした。
身体が少し持ち上がる。
膝が落ちた。
「……は?」
もう一度、脚へ力を通す。
傷は塞がっている。
輪郭もある。
貫かれた場所が崩れているわけではない。
「動け!」
立ち上がる。
今度は一歩だけ出た。
そこで、全身の輪郭が揺れた。
治っていないのではない。
戻した身体を動かすだけの精霊力そのものが、足りなくなっていた。
精霊力を傷へ集めれば、身体の形は応えてくれる。
だからこそ、残量がある間は自分がどれだけ減っているのか分かりにくい。
形が戻ることと、戦える状態へ戻ることは同じではなかった。
今までなら考えなくてもよかった差が、ここで初めて表へ出た。
◆ もう動かない
樹の精霊王が近づいてくる。
森の外まで枝と根が伸び、シアの周囲を囲み始めた。
その上では、重の精霊王が新しい岩を浮かせている。
シアは二個の分霊核を前へ出した。
一個を森へ向ける。
もう一個を上空へ向ける。
樹を防げば、岩を止められない。
岩を壊せば、枝と根が届く。
二個を両方へ使えば、その間にシア自身を動かす力が足りない。
「まだだろ」
手を地面へつく。
立とうとする。
脚は形を保っている。
肩も最低限はつながっている。
身体のどこかが完全に失われたわけではない。
それでも、動かない。
精霊王は人間より治りやすい。
失った身体も、力があれば戻せる。
だから、どれだけ傷ついても戻せばいいと思っていた。
今は違う。
戻すための力そのものが残っていない。
枝がさらに近づく。
上空の岩が増える。
シアは左右の分霊核を見る。
二個とも、まだ動く。
炎も出せる。
だが、全部は止められない。
一つずつなら防げる。
二つ同時でも少しは持つ。
その先がない。
「……こんなところで」
分霊核を探しに来ただけだった。
一個も見つけていない。
帰る道まで、なくなっていた。
炎で無理やり身体を押し出すことも考えた。
足元へ少し力を集めた瞬間、全身の輪郭がまた揺れる。
加速に使えば、その一歩で身体を保つ力まで失う。
シアは炎を止めた。
動くための力と、存在し続けるための力が、もう分けられないところまで減っている。
※第47話「消えたくない」は全七回です。
続きます。
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