(五)穿たれた肩
◆ 空も塞がる
地上の道がまた狭くなる。
シアは上を見た。
「森が邪魔なら、上だ」
足元へ炎を集める。
一気に噴き出し、木々の上まで跳び上がった。
視界が開く。
森の外縁も見えた。
この高さなら枝と根は届きにくい。
その代わり、別のものが待っていた。
上空一面に、大小の岩が浮かんでいる。
「最初からこっちにいたのかよ!」
重の精霊王が腕を動かす。
岩が横へ移動し、シアの進路へ並んだ。
飛行ではない。
シアは炎で跳び、押し、落下の向きを変えられるだけだ。
一度上へ出ても、空中で何度も自由に曲がれるわけではない。
一個目の分霊核から炎を放つ。
正面の岩を砕く。
破片の間へ身体を通す。
次の岩が上から落ちる。
二個目で横へ弾く。
その下では、木々がさらに高く伸びていた。
枝が空中へ突き出し、着地できる場所を減らしていく。
上へ行けば岩が多い。
下へ戻れば森が閉じる。
シアは炎を下へ噴き出し、斜め前へ身体を押した。
辛うじて木のない場所へ着地する。
そこへ、根が走ってくる。
「どこへ行ってもいるな!」
空も逃げ道にはならなかった。
極炎ならセトの剣技と合わせて空中の位置も作りやすい。
今は人型のシア一人だ。
炎で身体を押すことはできても、四翼の光の精霊王のように静止したまま横へ滑ることはできない。
上へ出たことで、むしろ自由に避けられない差がはっきりした。
◆ 逃げる
樹の精霊王へ届く前に、重の精霊王の攻撃で力を削られる。
重の精霊王へ向かえば、森が道を塞ぐ。
倒す順番を考える意味はなかった。
今の消耗した状態で、二人とも倒すのは難しい。
「逃げられるなら逃げろ、か」
さっきの念話でネアにも言われた。
山小屋を出る時にも、自分で同意した。
「分かってる」
シアは樹の精霊王へ背を向けた。
二個の分霊核を後方へ残す。
一個目で枝を焼く。
その間に二個目で落ちる岩を逸らす。
シア自身は、森の薄い方向へ走った。
根が地面を盛り上げる。
それを飛び越える。
前方へ岩が落ちる。
炎を横へ放ち、身体を押して進路を変えた。
着地した場所へ枝が伸びる。
分霊核を一個戻し、足元を焼く。
止まらず進む。
背後から森が追ってくる。
木々そのものが歩くわけではない。
シアが通った道を新しい枝と根が埋め、進路を左右から狭めている。
その上では、浮かび上がった岩がシアを追うように移動していた。
逃げる判断は間違っていない。
問題は、逃げると決めたからといって相手が止まってくれるわけではないことだった。
「しつこい!」
前方の木々が、急に左右へ開いた。
薄く広げた探索の感覚を思い出す。
森の中でも、右より左の方が植物の密度が低かった。
分霊核の反応ではなかったが、さっき調べた地形の情報は残っている。
シアは勝てる方向ではなく、抜けられる可能性が一番高い方向を選んだ。
◆ 穿たれた肩
一本の道ができていた。
森を抜けたわけではない。
罠だ。
見れば分かる。
左右へ退いた枝の先端が、道の中央へ向いている。
それでも、ほかに進める場所はない。
シアは炎をまとい、その道へ入った。
一個目の分霊核で右側を焼く。
左から伸びた枝を、自分の炎で折る。
背後から岩が落ちる。
二個目を上へ向け、炎で砕いた。
砕けた岩の破片が降る。
その中を突き抜け、シアは前へ進む。
森の外が見えた。
あと少し。
足元の地面が急に沈んだ。
「重っ……!」
身体が下へ引かれる。
重の精霊王が、踏み出した足へかかる重さを増やしている。
わずかに動きが遅れた。
横から伸びた枝が肩を貫く。
「っ!」
シアの身体が止まった。
枝が肩の中でさらに伸びようとする。
シアは枝をつかみ、炎を流した。
内側から焼き切る。
肩から引き抜き、そのまま前へ走る。
欠けた肩から精霊力が漏れる。
右腕に力が入りにくい。
完全に治せば、その分だけ精霊力を使う。
シアは傷口の周囲へ最低限だけ力を集めた。
欠けた輪郭を全部戻さない。
漏れが減るところまで塞ぐ。
「腕が動けばいい」
指を握る。
動く。
それで十分だ。
精霊王の身体は、人間の肉体と同じではない。
欠けた部分へ力を集めれば形を戻せる。
だが、戻すために使った精霊力まで自然に返ってくるわけではない。
今必要なのは見た目を元通りにすることではなく、走り続けることだった。
※第47話「消えたくない」は全七回です。
続きます。
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