(四)敵を使う
◆ 危険を伝える
シアは伸びてきた枝を焼きながら、意識の一部を遠くへ向けた。
『ネア』
すぐに返事は来ない。
離れているうえ、ネアも探索中だ。
シアは長い説明をしようとせず、必要なことだけ送る。
『北。樹と重。二人いる』
少し遅れて、ネアの感覚が返った。
『以前の二人ですか?』
『ああ。話が通じない。たぶん光の影響だ』
『戦っていますか?』
『向こうから来た』
『離れられますか?』
『やってみる』
岩が一つ落ちる。
シアは横へ飛びながら、枝を焼いた。
『無理なら戻ってください』
『分かってる』
『本当に?』
『今それやるか!』
念話の向こうで、ネアが何か返しかけた気配がした。
だが、そこまでだった。
助けに来てとは言わない。
ネアも別の方向で分霊核を探している。
正確な位置も、この念話では伝えにくい。
何より、二人とも山小屋を出る時に決めた。
危険なら連絡する。
無理なら戻る。
最後は必ず戻る。
シアは念話を切った。
「だから、逃げればいいんだろ」
自分へ言い聞かせるように呟く。
樹の精霊王を倒す必要はない。
重の精霊王も同じだ。
分霊核を一個も見つけていなくても、生きて戻れば次がある。
今度は最初から、勝つためではなく逃げるために二個の核を動かした。
念話で細かな戦況を並べても意味はない。
どの木の陰にいるか、岩が何個浮いているかまで送れるものではない。
ネアに必要なのは、北で二人に捕まったことと、まだ離脱を試せる状態だという二点だけだった。
◆ 樹と重
一個目の分霊核を先に進行方向へ動かす。
炎で枝を焼く。
道が開く。
シアがそこへ入った瞬間、地面から根が突き出した。
身体をひねって避ける。
二個目の分霊核は後方へ残す。
落ちてきた岩へ炎をぶつけ、軌道をずらした。
一対一なら戦える。
樹の精霊王だけなら、増殖を上回る火力を一か所へ集中し、本体を崩せばいい。
重の精霊王だけなら、岩を避けながら接近できる。
だが、二人が同時にいる。
木々がシアの移動先を狭める。
足が止まった場所へ、重くなった岩が落ちる。
岩を避ければ、枝と根が待っている。
枝を焼けば、その間に次の岩が浮かび上がる。
意図して協力しているのかは分からない。
互いに声を掛けることもない。
それでも、二つの役割が勝手に噛み合っていた。
「なら、そっちも邪魔し合え!」
シアは樹の精霊王へ向かって炎を放つ。
一直線に森を焼き、相手までの道を開いた。
そのまま正面へ突っ込む。
上空が暗くなる。
巨大な岩が、シアの進路へ落ちてきた。
シアは止まらない。
落下する直前、炎を横へ噴き出して身体だけを外へ逃がした。
巨大岩は、そのまま森へ落ちた。
樹の精霊王がシアを追って枝を伸ばすほど、移動できる幅は狭くなる。
重の精霊王は、その狭くなった場所へ岩を落とせばいい。
どちらかが相手へ合わせているようには見えない。
役割の性質だけで、結果として逃げ道が削られていく。
◆ 敵を使う
岩が地面を叩いた。
太い幹がまとめて折れ、根ごと土がめくれ上がる。
樹の精霊王が広げていた森の一部が、一撃で潰れた。
「使える!」
シアは岩が作った窪地へ飛び込んだ。
自分で全部焼く必要はない。
重の精霊王が落とす岩も、当たる場所を選べるなら道を作る力になる。
次の岩が浮く。
シアはわざと枝の濃い場所へ走る。
樹の精霊王が移動先を塞ぐ。
その頭上へ岩が来た。
着弾寸前に横へ抜ける。
岩が落ちる。
森がまた潰れる。
「もう一回!」
三度目はうまくいかなかった。
シアが進路を変えた瞬間、地面から根が伸び、足首を狙う。
跳び越える間に岩の着弾位置がずれた。
それでも、二人の攻撃は完全な連携ではない。
重の岩は樹の作った森も壊す。
なら、そこに穴はある。
そう思った直後、最初に潰れた場所を見た。
折れた幹の脇から、新しい芽が伸びている。
めくれた土の下から根が出る。
砕けた木を押しのけ、若い幹が立ち上がる。
「早すぎるだろ!」
一瞬の道は作れる。
だが、同じ道を二度は使えない。
シアは前へ進みながら、重の攻撃を森へ落とさせ続けた。
逃げる時間は作れる。
それ以上にはならなかった。
ただし、岩が作った窪地は次の足場としては悪い。
地面が砕け、根が露出し、走れば足を取られる。
敵の攻撃で森を壊せても、安全な道まで作ってくれるわけではない。
シアは窪地の縁だけを踏み、止まらず抜けた。
※第47話「消えたくない」は全七回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/




