(二)点ではない
◆ 候補地
以前に集めた情報では、北側にも赤い宝玉の候補が残っていた。
小さく、赤く、人間の道具では削れない宝石。
祭具へ使おうとして加工できなかったもの。
商人の手を渡った後、行方が分からなくなったもの。
ほかの宝石と一緒に倉庫へ入れられたもの。
人間にとっては、少し変わった宝石でしかない。
その中に火の分霊核が混ざっている可能性がある。
シアは街道に沿って精霊力を広げた。
崩れた石垣。
空になった荷車。
焼けた木。
岩壁。
触れたものから、少しずつ違う感覚が返る。
さっき確かめたような一点だけの空白はない。
「ここじゃない」
範囲を広げる。
遠くまで一気に探そうとはしない。
広げすぎれば、返ってくる感覚が重なって分かりにくくなる。
左右の分霊核を別々に動かし、片方を基準にしながら少しずつ前へ進む。
一つの候補が外れた。
なら次へ行けばいい。
人間が残した情報が全部正しい保証もない。
すでに別の場所へ運ばれている可能性もある。
焦って炎を広げても、分霊核が近づいてくるわけではない。
シアは歩きながら、薄い精霊力の端を少しずつ伸ばした。
その先で、返り方が急に変わった。
一点ではない。
もっと広い。
崩れた街道の向こうにある森全体から、複雑に乱れた感覚が返ってきた。
光の精霊王の影響で道そのものも以前とは変わっている。
情報にあった倉庫や商家が残っているとも限らない。
建物が崩れていても、その中にあった宝玉まで消えたとは限らない以上、場所ではなく反応を追うしかなかった。
◆ 点ではない
シアは立ち止まり、広げた精霊力を少しだけ絞った。
もう一度、森へ送る。
返ってくる。
だが、途中で形が変わる。
枝へ絡み、葉へ広がり、根へ吸われ、別の場所から押し返される。
「違う」
分霊核なら、一点だけが抜ける。
今感じているのは、森全体だ。
シアは右の分霊核を森の手前へ動かした。
そこだけは、さっきと同じように精霊力が消える。
そのすぐ奥では、植物に触れた力が複雑に乱れて返ってくる。
二つはまったく違った。
「核じゃない。これ、森の方がおかしい」
精霊力を戻す。
薄く広げていた間にも、森の輪郭は少し変わっていた。
焼けた木の間から新しい幹が伸びている。
地面を覆っていた草が道の中央へ進み、ひび割れた石の隙間へ根を入れていた。
目を離していたわずかな時間で、人の通った跡が薄くなっている。
分霊核の候補地は、この先にある。
森を避けて大きく回れば、次の候補へ着くまでかなり遠くなる。
「通るだけなら行けるか」
火は樹に強い。
道を作るだけなら難しくないはずだった。
シアは二個の分霊核を近くへ戻し、森へ足を踏み入れた。
その判断が甘かったと分かったのは、数歩進んだ後だった。
候補地へ続く街道は、この森の中へ飲み込まれている。
大きく迂回すれば、別の候補を先に回ることはできる。
だが、今まで人が物を運んでいた道筋の先に候補があるなら、森の向こうを確認せずに捨てる理由もない。
シアは最短で抜けることだけを考えた。
※第47話「消えたくない」は全七回です。
続きます。
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