(六)二つの方向
◆ 残るか探すか
「ネアが行け」
シアが言った。
「私はここに残る」
「なぜですか」
「私が力を入れてた方が安定するだろ」
「今はフィオラが一人で保てています」
「何かあった時に、私がいた方が早い」
「シアがここにいても、セトの回路は治りません」
ネアの言葉に、シアが黙る。
「分霊核を探せば?」
「見つかれば、わたしたちの戦力は確実に増えます」
「私がここにいたら?」
「今の状態を見ているだけです」
シアは寝台を見る。
セトは動かない。
フィオラの細い風だけが身体を流れている。
「……私がいても増えない?」
「はい」
「分霊核なら増える」
「はい」
フィオラがセトの胸へ触れたまま、シアを見る。
「ここで大きな変化があれば、すぐにお二人へ念話を送ります」
「私が戻るまで待つなよ」
「危険なら、その時点で送ります」
シアは大きく息を吐いた。
「気に入らない」
「わたしもです」
ネアが静かに答える。
「ですが、今できることを選ぶしかありません」
シアはしばらくセトを見た後、赤い分霊核を二個とも自分の近くへ戻した。
「分かった。探す」
セトのそばに残ることと、セトのためにできることは同じではない。
そこを分けるのに、シアは時間がかかった。
「ただし、見つけたらすぐ戻る」
「見つける前に危険が来た場合も連絡してください」
「分かってる」
「本当に?」
「今それやるか?」
ネアは少しだけ目を細めた。
◆ 戦力分担
「では、ここはわたしたちが守ります」
ハルヴェンが言った。
「俺とリグで周辺を警戒します。光の精霊王と戦えと言われると困りますが、ほかのものを山小屋へ近づけないことならできます」
「俺まで勝手に入れたな」
「違いますか?」
「違わない」
リグは扉の外を見る。
「この辺りにいる次代の精霊王が、光の影響でどう動くか分からない。シアとネアがいなくなるなら、誰かが外を見る必要がある」
「中はわたしが見ます」
フィオラが答えた。
「流れに大きな変化があれば念話を送ります。ただし、正確な位置や長い説明はできません」
「危険かどうか分かれば十分だ」
シアが寝台のそばへ戻る。
「私たちを戻したことは、まだ許してない」
返事はない。
「勝手に壊れたこともだ」
フィオラの風に支えられ、セトの胸がわずかに上下する。
「だから、起きたら話す」
シアはそれだけ言い、寝台から離れた。
ネアもセトのそばへ立つ。
「フィオラさん、わたしたちが戻るまでお願いします」
「はい。止めません」
フィオラはセトから手を離さない。
リグは外。
ハルヴェンは山小屋の周囲。
フィオラは中。
シアとネアは探索。
誰も光の精霊王を倒せるとは言わなかった。
リグとハルヴェンの役目も、光の精霊王との再戦ではない。
フィオラの調整を邪魔するものを近づけず、山小屋を今のまま保つことだった。
今できる役割だけを分けた。
◆ 二つの方向
山小屋を出ると、空は白く曇っていた。
雲ではない。
遠くで放たれた光が、大気の中へ残っている。
シアとネアは山道の途中で立ち止まった。
「私は北から回る」
「では、わたしは西へ向かいます。以前集めた人間側の情報で、まだ確認していない地域があります。集落が残っていれば、追加の情報も集めます」
「一緒に探した方が安全じゃないか」
「一緒にいても、シアに分かるのは火の分霊核。わたしに分かるのは月の分霊核です」
「火を見つけてから月へ行けばいい」
「その間、もう一方の探索は進みません」
シアは不満そうに空を見る。
だが反論はしなかった。
「見つけたら連絡する」
「危険な場合もです」
「分かった」
「本当に?」
「分かったと言っただろ」
ネアはシアを見たまま、少し間を置いた。
「必ず戻りましょう」
「ああ」
二人は別々の方向へ進んだ。
同じ場所を二人で探すより、火と月を同時に探す。
危険が増えることは分かっている。
それでも、光の精霊王が活動を続けている以上、時間を二倍には使えない。
シアは崩れた斜面を上り、北へ向かう。
ネアは残された山道をたどり、西へ向かう。
背後の山小屋は、すぐに岩陰へ隠れた。
その中では、フィオラの細い風がセトの身体を流れ続けている。
治ってはいない。
助かる方法も分からない。
それでも、止まりかけた精霊回路は、まだ完全には止まっていなかった。
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