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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第46話 止まらない精霊回路

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(一)揺らせない身体

◆ 止まりかける流れ


 セトの身体の中に残った流れは、何度も止まりかけた。

 シアが精霊力を集める。

 ネアが量を抑え、細く整える。

 その力を、セトの左手から左腕へ流した。


 途中で流れが散る。

 断裂した精霊回路から漏れ、胸へ届く前に身体の別の場所へ広がろうとした。


「少し弱めて」

「これ以上弱くしたら止まるぞ」

「強すぎれば、残っている回路まで壊れます」


 ネアの指示で、シアが集める力をわずかに減らす。

 ネアは切れた場所を避け、残っている細い流れへ向きを変えた。


 それでも、長くは保たない。

 少し前まで通っていた場所が塞がり、別の枝だけが残る。

 ネアはその都度、使える経路を探し直した。


 左腕から胸へ。

 胸から右腕へ。

 極剣と絶剣をつないだ経路に沿って、特に深く壊れている。


「ここじゃ駄目だ」


 シアが周囲を見る。

 隆起した岩山の裏側とはいえ、光の精霊王から十分に離れたとは言えない。

 地面も時々低く震えていた。


「山を下りる途中に建物がありました」

「遠いか?」

「この状態でも運べる範囲です」

「行く」


 シアはセトの背中と膝裏へ腕を回した。

 力任せには担がない。

 持ち上げた瞬間にも流れが外れないよう、ネアが胸へ手を当てたまま位置を合わせる。


「動くぞ」

「ゆっくりお願いします。揺れたら、すぐ止まってください」


 シアは一歩だけ踏み出した。


◆ 揺らせない身体


 一歩目で、セトの胸を通っていた流れがずれた。


「止まって」


 ネアの声で、シアはすぐ足を止める。

 抱えた身体を動かさず、その場で待った。


「今のでか?」

「はい。身体そのものが揺れると、使っていた経路の位置も変わります」

「そんなに脆いのか」

「脆いというより、固定できる道がほとんど残っていません」


 ネアはセトの左腕へ細い力を流す。

 さっきまで使えていた中央の経路は途切れていた。

 少し外側へずらす。

 胸の手前でまた消える。

 さらに細くし、別の枝へ通す。


「今です」


 シアがまた歩き始める。

 今度は歩幅を小さくした。


 岩の欠片を踏まない。

 崩れた地面へ体重を落とさない。

 セトを抱く腕の高さも変えない。

 普段なら一息で越える段差を、一歩ずつ確かめる。


「炎で少し浮かせた方が揺れないんじゃないか」

「加速の瞬間に負荷が出ます。それに、着地で必ず揺れます」

「飛び続ければ?」

「今のシアでは、セトを抱えたまま細かく調整し続ける方が危険です」


 シアは言い返さなかった。

 戦う時なら、速さはそのまま安全につながる。

 相手の攻撃より先に動き、危険な場所から抜ければいい。

 今は、その速さを出すための踏み込みや着地こそが危険だった。


 今は逆だった。


 速く動くほど、セトの身体の中で使える道が崩れる。

 ここでは最短時間より、揺らさないことの方が重要だった。


「面倒だな」


 シアは小さく言う。


「ええ。ですが、今はそれをやるしかありません」


 ネアの返事に、シアは歩幅をさらに狭くした。


◆ 遠回り


 山小屋へ向かう途中で、道が二つに分かれた。

 正面は短い。

 ただし、光で隆起した地面が途中から急な斜面になり、岩が何段にも積み重なっている。

 左側へ回れば遠いが、古い山道がまだ残っていた。


「正面で行く」


 シアが即座に言った。


「左です」

「遠い」

「距離ではなく、揺れる回数で考えてください」


 ネアが正面の斜面を見る。

 一段上がるたび、セトの身体を持ち上げ直す必要がある。

 足場が崩れれば、抱えているシアまで姿勢を変えなければならない。


「平らな道なら、流れを作り直す回数を減らせます」

「光の精霊王が来たら?」

「その時は別です。ですが、今のところ追ってくる気配はありません」


 遠くの空が白く明滅する。

 湖の方角では、まだ何かが変形し続けている。

 光の精霊王が活動を止めたわけではない。


 シアは正面と左を見比べた。


「……左だな」


 二人は遠回りを選んだ。

 速く着くためではない。

 着くまでセトの流れを止めないためだった。


 古い山道はところどころ崩れていたが、急な上下は少ない。

 シアは炎を使わず歩く。

 ネアはセトの胸へ触れたまま、呼吸するように細い流れを動かした。


「セト」


 シアが呼びかけようとする。


「呼ばないでください」

「聞こえてるかもしれない」

「聞こえていても、返事をしようと身体を動かすかもしれません」


 シアは口を閉じた。

 返事が欲しい気持ちより、今は動かさないことを優先する。

 それも、普段のシアには難しい選択だった。



※第46話「止まらない精霊回路」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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