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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第45話 極剣と絶剣

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(七)壊れた回路

◆ 最後の一撃


 光の精霊王が四枚の翼を大きく開く。

 周囲の原光が一斉に集まり始めた。

 白い膜が何重にも重なり、その内側へさらに光が収束する。


 セトは本体ではなく、翼の間に集まる光を見た。


 身体を切っても戻る。

 翼を欠けさせても修復される。

 なら、今集めているものをそのまま返す。


「来ます!」


 ネアの声と同時に、白い奔流が放たれた。


 セトは絶剣を正面へ置く。

 黒い刀身へ、これまでで最も大きな流れが入った。


 左手。

 左腕。

 すでに傷ついていた回路が一斉に裂ける。


 胸へ届く。

 身体の奥で、太い流れが途切れた。

 視界が白くなる。


 それでも右へ通す。

 右腕も崩れていく。

 極剣が強く光った。


「絶剣!」


 受ける。

 流す。


「極剣!」


 返す。


 白い線が何重もの防御膜を貫いた。

 一枚。

 二枚。

 三枚。


 そのまま四翼の間へ入り、そこに集められていた光へ突き刺さる。


 外から斬るのではない。

 集めた力を、内側から弾けさせた。

 本体を大きく傷つけることが目的ではない。

 四翼が回収と防御へ使おうとして集めた原光を一度散らし、再び集め直す時間を作る。

 返した光が循環へ戻りにくいなら、その時間はさっきまでより長くなる可能性がある。

 勝つためではなく、離れるために初めてその性質を使った。

 狙いが通れば、修復より先に三人が湖を離れられる。


◆ 離脱


 白い光が湖の上で爆ぜた。

 光の精霊王の身体が大きく崩れる。

 四枚の翼が乱れ、白い人影が湖の反対側まで押し飛ばされた。


「今だ!」


 セトは振り返ろうとした。

 足が動かない。

 極剣と絶剣が同時に消える。


 安全制限が戻ったのではない。

 刃を維持する流れそのものが途中で切れていた。


 膝が落ちる。


「セト!」


 シアが倒れる前に身体を支えた。

 ネアが反対側から腕を取る。


「離れろ」


 セトは言ったつもりだった。

 声になったかは分からない。


「分かってる!」


 シアの足元で炎が弾ける。

 弱った赤い分霊核が前方の崩れた岩を吹き飛ばした。

 ネアの黒い核が後方の原光をわずかに曲げる。


 三人は湖から離れる。

 光の精霊王は追ってこない。

 崩れた身体と乱れた翼を、周囲の原光で修復している。


「まだ見てる」


 シアが振り返る。


「構わず進んでください」


 ネアはセトの胸へ触れた。

 その表情が変わる。


「セト」


 返事はなかった。

 セトは目を開けようとした。

 何も見えない。

 身体の中を流れていた原光も、もう感じられなかった。

 後方では、ネアが残った黒い分霊核で追ってくる光だけをわずかに逸らす。

 シアはセトの身体を抱えたまま、短い炎を何度も足元へ出した。

 大きく加速すればセトを落とす。

 遅ければ修復を終えた光の精霊王に追いつかれる。

 二人は戦うためではなく、運ぶために残った力を使っていた。


◆ 壊れた回路


 三人は隆起した岩山の裏側まで離れた。

 白い光が直接見えなくなったところで、シアがセトを地面へ下ろす。


「傷は?」


 シアが上着を開く。

 光に焼かれた跡。

 腕や肩を走る赤黒い線。

 口元から流れた血。

 それでも、身体の表面だけを見れば致命傷には見えない。


「違います」


 ネアはセトの胸へ手を当てた。


「外ではありません」


 精霊力を少しだけ流す。

 返ってこない。

 本来なら一本につながるはずの流れが、途中で何度も切れている。


 左手から左腕。

 胸。

 右腕。

 絶剣から極剣へ原光を通した経路に沿って、精霊回路が裂けていた。


「治せる?」

「今は無理です」

「なら、私の力を入れれば」

「入れないでください」


 ネアがシアの手を止める。


「切れた場所へ流し込めば、そこからさらに崩れます」

「じゃあどうする!」


 ネアはわずかに残っている流れを探した。


「つなげません。止めないようにします」


 治すのではない。

 切れていない部分まで完全に止まらないよう、手前で細い流れだけを保つ。

 シアも隣へ座り、ネアの手へ自分の力を重ねた。


 二人ができるのは、それだけだった。

 シアは何度もセトの顔を見るが、呼びかけへの返事はない。

 ネアは治癒術を使う代わりに、切断の手前で止まりかける原光を一つずつ探す。

 完全に止まれば、その先へもう流れを渡せない。

 だから今は壊れた部分を直すより、残った流れを失わないことを優先するしかなかった。


「運びます」

「どこへ?」

「まず、ここからもっと離れます」


 二人は再びセトを支えた。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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