(六)離れるために
◆ 壊れるほど強い
今度の光は細く、速かった。
セトは絶剣で受ける。
流れ込んだ量は先ほどより少ない。
その分、左腕への衝撃も小さい。
極剣から返した光も細い。
防御膜へ穴は開くが、人型まで大きく崩すほどではなかった。
「量がそのまま返る?」
シアが尋ねる。
「近いです」
ネアが答える。
「受けた量が多いほど、極剣から出せる量も増えています。ただし」
光の精霊王が次の奔流を放つ。
今度は太い。
絶剣へ入った瞬間、セトの左腕から肩までが大きく震えた。
胸へ通したところで呼吸が止まる。
右腕へ抜ける時、今度は肩の奥で何かが裂けた。
極剣から放たれた反撃は大きい。
防御膜をまとめて押し割り、光の精霊王の胴を半分近く崩した。
強い攻撃ほど強く返せる。
同時に、身体へ通す量も増える。
「これ、相手が強いほどセトも強くなるんじゃない」
シアの声が低くなる。
「相手が強いほど、壊れるのも早い」
セト自身が続けた。
有利になる仕組みではない。
威力と損傷が、同じ流量で一緒に増えているだけだった。
小さく受ければ身体は保つが、相手の膜を崩しきれない。
大きく受ければ防御を破れるが、その一回で次の受け方がなくなる。
出力を上げる判断と、残り時間を削る判断が完全に同じになっている。
通常の技のように、威力だけを上げる余地はなかった。
◆ 危険と認識するもの
光の精霊王の動きが変わった。
攻撃をやめたわけではない。
白い光はなおも飛んでくる。
ただ、セトの正面へ一直線に撃つ回数が減った。
斜め上から。
湖面すれすれを走らせるように。
散乱させ、複数方向から包むように。
絶剣へまとめて受けさせない方向へ変わっている。
「考えてる?」
シアが聞く。
「そうは見えません」
ネアが答えた。
「ですが、同じことを避ける反応はしています」
返した光が戻らない。
防御膜を破られる。
自分の身体を構成する光まで崩される。
その結果だけを、危険として扱い始めたように見えた。
セトが極剣で踏み込むと、光の精霊王は距離を取る。
しかし逃げ続けるわけではない。
離れたところから別角度の光を放ち、四枚の翼を広げて防御膜を厚くする。
「近づきたくはない。でも、攻撃はやめない」
セトが言う。
「それなら十分です」
ネアが後方を見る。
「距離を取らせられるなら、離脱の時間を作れます」
倒すことはできていない。
だが、初めて相手の行動を変えるだけの危険にはなった。
距離を取った光の精霊王は、なおも周囲から原光を集めている。
防御へ回した分だけ攻撃が消えたわけでもない。
セトへ一直線に返されにくい形へ、撃ち方と位置取りを変えただけだった。
学習と呼べるほどの判断かは分からない。
しかし、同じ現象をそのまま繰り返さなくなったことだけは確かだった。
◆ 離れるために
セトは光の精霊王を見る。
攻撃は通る。
防御膜も割れる。
人型も翼も崩せる。
返した光は循環へ戻りにくい。
それでも、四翼は周囲全体から原光を集め続けている。
一度の反撃で失わせる量より、周囲から補う量の方がまだ大きい。
このまま続ければ、先に止まるのはセトの身体だった。
「倒すのは無理だ」
シアが何か言う前に、セトが続ける。
「今はな」
極剣と絶剣を使えば届く。
届くことと、勝てることは別だった。
「二人とも、離れる準備をしてくれ」
「セトも一緒だぞ」
「ああ」
シアは弱った赤い分霊核を一個だけ前へ出す。
ネアも黒い核を後方へ回した。
「道を作る?」
「お願いします」
ネアが答える。
「わたしは後ろの原光を曲げます。シアは落ちてくる岩をお願いします」
「任せろ」
二人はもう精霊剣には戻らない。
残った力は、セトをさらに戦わせるためではなく、三人が離れるために使う。
セトは絶剣を前へ出した。
次の一撃で相手を倒す必要はない。
必要なのは、光の精霊王が追えないだけの間だった。
シアは赤い核を攻撃位置ではなく退路の岩場へ送る。
ネアも黒い核をセトの正面ではなく後方へ置く。
先ほどの戦いでは四つの核をセトが近づくために使った。
今度は逆だった。
セトが最後に前へ残り、二人の残った力は三人が後ろへ下がるために使われる。
※第45話「極剣と絶剣」は全七回です。
続きます。
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