(五)戻らない光
◆ 絶剣で受ける
光の精霊王が散乱光を放つ。
セトは絶剣を振った。
全部を受ける必要はない。
自分へ直撃する部分だけを黒い刀身へ集める。
白い光が黒へ吸い込まれた。
処理しきれない原光が、今度は止められることなく左手へ流れ込む。
左腕の中で、細いものが何本も切れた。
指の感覚が薄くなる。
それでも絶剣は消えない。
以前なら、ここまで壊れる前に黒刃が弱まり、術そのものが解除されていた。
今は止める命令を外している。
身体が壊れたことを理由に、刃は止まってくれない。
「左が遅れています!」
ネアが外から流れを見ていた。
「何が」
「指先から肘まで、戻る流れがほとんどありません。次を同じ場所で受けないでください」
セト自身には痛みより先に感覚が消え始めていた。
握れているかどうかさえ、目で見なければ分からなくなりつつある。
「なら角度を変える」
次の光へ、絶剣を斜めに置く。
黒刃へ入れる位置をずらす。
完全な解決ではない。
身体の別の経路へ負担を分散しただけだ。
受け止められる量が増えたのではない。
自分の身体を、壊れる場所として追加しただけだった。
ネアはそれ以上、同じ角度で受けるよう勧めなかった。
絶光なら流れを外へ逃がす選択ができたが、絶剣ではセトの身体へ逃がす割合が増える。
受けられるようになったのではなく、外から見えない場所へ損傷を移しただけだと、ネアにもはっきり見えていた。
◆ 極剣で返す
絶剣から入った原光を、そのまま身体へ残すことはできない。
セトは胸を通過した流れを右腕へ押し込み、極剣へつないだ。
白い刀身が強く輝く。
密度を細かく調整したのではない。
接触する刃先だけを強めたわけでもない。
人間が安全に扱える量を超えた原光を、身体と白刃へ一度に流している。
光の精霊王が防御膜を重ねた。
「返す」
極剣を振り下ろす。
絶剣で受けた光が、白い奔流となって刀身から放たれた。
防御膜の一枚目が割れる。
二枚目へ亀裂が走る。
極剣本体がその裂け目へ入り、三枚目まで切り開いた。
白い人影の右腕が切断される。
腕を形作っていた光が崩れ、湖へ降り注いだ。
「効いてる!」
シアが叫ぶ。
「まだです」
ネアは四翼を見ていた。
周囲から原光が集まり、失われた腕を作り直し始めている。
ただし、セトが返した光そのものは、先ほどまでとは違う動きをしていた。
湖面へ散った白い粒が、すぐには四翼へ戻らない。
光の精霊王の動きが、一瞬止まった。
切り落とされた腕そのものは、別方向から集まった原光ですぐに形を戻していく。
それでも、返された分がその修復へ参加していない。
さっきまでなら、弾いた光の一部まで循環へ戻り、攻撃と回復がつながっていた。
今は、その輪の一部だけが外へこぼれたままになっている。
◆ 戻らない光
四枚の翼が大きく開く。
周囲に散った原光が、いつものように翼へ引かれ始めた。
だが、極剣から返した光だけは動きが鈍い。
消えてはいない。
湖面や空気中に原光として残っている。
それでも、放たれた時と同じようには四翼へ戻らなかった。
「戻ってない?」
シアが気づく。
「正確には、戻りにくくなっています」
ネアが答える。
「絶剣で一度、元の流れを切っています。その後、セトの身体を通り、極剣から別の方向へ放出された。原光そのものが別の属性へ変わったわけではありませんが、元の循環から外れています」
光の精霊王が翼を閉じる。
すぐにもう一度開いた。
白い人影が、散った光の方へわずかに向きを変える。
「止まった」
シアが言う。
「戸惑っているのでしょうか」
「分からない」
セトは極剣を構えたまま答える。
光の精霊王に明確な自我は見えない。
それでも、本来なら戻るはずのものが戻らないという変化には反応している。
次の瞬間、四翼が再び光った。
「来る!」
戸惑いは一瞬だった。
攻撃そのものをやめたわけではない。
ただ、四翼は一度余計に開閉した。
回収できない光を拾おうとしているのか、別の流れを探しているのかは分からない。
自我のない相手が何を考えたかではなく、循環へ戻らない現象そのものに反応が出た。
それだけなら、目で見て確認できる事実だった。
※第45話「極剣と絶剣」は全七回です。
続きます。
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