(四)極剣だけで追う
◆ 引き上げられた身体
光の精霊王が細い光を三本放つ。
今なら見える。
一本目を身体を沈めてかわす。
二本目を白刃で切る。
三本目は黒刃で受けた。
原光が左手へ流れ込む。
安全制限はもう働かない。
左腕を通り、胸を抜け、右腕へ向かう。
白刃を横へ振ると、受けた光が白い斬撃となって返った。
光の精霊王の防御膜が大きくへこむ。
「極炎と同じくらい動ける」
セトが言う。
「同じじゃない!」
シアが強く否定した。
「私が極炎の時は、セトが動くのに合わせて力を出してる! 今は全部セトが受けてるだろ!」
「結果は近い」
「結果だけ見るな!」
ネアもシアへ同意した。
「身体能力が上がっていること自体は事実です。ですが、精霊剣のような調整はありません。流量も止める位置も、すべてセト自身が背負っています」
セトにも違いは分かっていた。
極炎なら、踏み込んだ先でシアが出力を落とす。
今は止める役がいない。
走れば走った分だけ、壊れかけた回路へ原光が流れ続ける。
強くなったのではない。
身体が壊れる限界まで、止まらなくなっただけだった。
それでも戦闘中に使う以上、速さそのものは利用するしかない。
セトは次の踏み込みを少し浅くし、極炎を握っていた時の感覚ではなく、今の自分の止まり方に合わせる。
使いこなすのではない。
壊れるまでの間、暴れる流れへ最低限の方向を与えるだけだった。
◆ 二つの名前
頭の中にあっただけの流れが、現実の戦い方になった。
だが、セトはこれを完成した技だとは思えなかった。
身体を守る制限を外し、精霊回路を削りながら原光を通す。
以前なら、名前を付ける価値すらないと判断した方法だった。
それでも、今の二本には近いものがある。
右手の白刃は極炎ではない。
シアの火も宿っていない。
それでも、人間の安全量を超えた原光を通し、身体を引き上げながら正面を切り開く。
極炎に近い役割を、自分を壊すことで作っている。
「極剣」
セトが短く呼ぶ。
「名前付けてる場合か!」
シアが怒鳴った。
「呼びにくいだろ」
左手の黒刃も絶光ではない。
ネアが流れを読み、曲げているわけではない。
処理しきれない原光を自分の身体へ通すことで、通常より大きな術を受け止める。
「絶剣」
「だから名前を付ければ安全になるわけではありません」
ネアが釘を刺す。
「分かってる」
極剣と絶剣。
二本の精霊剣に似た役割を持つが、原理はまるで違う。
だからこそ、似た名前しか思い浮かばなかった。
極炎と絶光を超えたという意味でもない。
二人がやっていた役割を、一人で危険な形に置き換えただけだ。
名前が付いても、安全な技へ変わることはない。
シアとネアが嫌そうな顔をしている理由も、セトには十分分かっていた。
◆ 極剣だけで追う
光の精霊王が横へ滑る。
今度は光を撃ってこない瞬間だった。
セトは絶剣を下げた。
受ける力がなくても、極剣は使える。
周囲から扱う原光を、身体が止める量より先まで右腕と白刃へ流す。
右脚へ力が入る。
地面を蹴った。
一気に間合いが縮まる。
「それ、極炎みたいに使うな!」
シアが叫ぶ。
「追える」
「追えるじゃない!」
四枚の翼が向きを変える。
光の精霊王が斜め上へ移動する。
セトはもう一度地面を蹴り、極剣へ流す量を増やした。
身体が前へ跳ねる。
自由飛行ではない。
空中で何度も向きを変えられるわけでもない。
それでも、直線の加速と突破だけなら極炎を握っていた時に近い。
光の精霊王が白い膜を作る。
セトは極剣を振り下ろした。
白い膜が割れる。
刀身が肩へ届き、白い人影の一部を崩した。
同時に、右腕の奥で細い何かが切れた。
極剣単独でも性能は出る。
その代わり、出力を上げた分だけ壊れる場所も増える。
「だから同じじゃないって言ってるだろ!」
シアの声だけが、はっきり聞こえた。
セトは追撃せず、一度着地する。
極剣だけで追えると分かったことは大きい。
同時に、攻撃を受けていない時まで限界を外せば、自分の原光だけでも回路を削ることが分かった。
絶剣が危険なのではない。
限界を越えて流す行為そのものが、どちらの刃でも同じように身体を壊していた。
※第45話「極剣と絶剣」は全七回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/




