(三)通路
◆ 左から右へ
左腕の中を原光が上る。
筋肉や骨を通っているわけではない。
その内側に重なっている精霊回路へ、許容量を超えた流れが押し込まれていく。
肘を越えたところで、また身体が止めた。
セトは無視する。
肩へ届く。
さらに止まる。
それも外す。
胸へ入る直前だけ、今までとは違った。
身体全体が硬くなった。
左腕だけでなく、脚まで動きを止めようとする。
ここから先へ通せば、左腕だけの損傷では終わらない。
分かっている。
それでも、白い光は黒刃へ入り続けている。
左側だけで止めれば、行き場を失った原光がそこへ集中する。
「止めた方が壊れる」
セトは胸へ向かう制御を外した。
内側で何かが裂けた。
呼吸が一瞬止まる。
原光が胸を横切り、右側へ向かう。
右肩へ届く前に、今度は出口側の制御が働いた。
右手には白刃がある。
だが、白刃へ大量の原光を流すことも、通常なら身体が止める。
「最後だ」
セトは右腕側の制限も外した。
白刃が強く光った。
左手から入った流れが、初めて右手までつながった。
途中で何度も止められた理由も分かった。
一か所でも流れを切れば、その手前へ原光が集中する。
全部をつないで初めて、身体の中へ滞留させず外まで運べる。
安全制限は一本の扉ではなく、経路の各所に置かれた複数の停止だった。
◆ 出口
原光は身体の中へ置いておけない。
左から右へ道を作っただけでは、胸と腕の中を流れ続ける。
出口が必要だった。
「出ろ!」
セトは右手の白刃を前へ振った。
刀身から白い光が噴き出す。
光の精霊王が放った奔流と、白刃から出た光が正面でぶつかった。
湖面の上で白い衝撃が弾ける。
二つの流れが左右へ割れ、セトの前に細い道が生まれた。
セトはすぐに理解した。
黒刃だけで受け続ける、この使い方は続かない。
処理しきれない原光を身体へ逃がしても、その先から出せなければ内部へたまる。
絶光のように安全に受け止められるわけではない。
白刃も同じだった。
突然、自分の精霊力が増えたのではない。
左から入ってきたものを、そのまま右から外へ押し出している。
「変えたんじゃない」
セトが呟く。
「何を?」
シアが後ろから聞く。
「こいつの光を、俺の力にしたわけじゃない」
ネアが流れを見て答えた。
「はい。属性変換も所有もしていません。ただ、セトの中を通過しています」
黒刃が入口。
身体が通路。
白刃が出口。
二本の刃と一人の身体で、一つの流れができていた。
ただし、白刃がなければ何もできないという意味ではない。
自分の原光を右側へ大量に流せば、白刃だけを強くすることもできる。
今必要だったのは、絶剣から入ってくる他者の膨大な原光を、滞留させずに捨てる出口だった。
受けと返しを同時に行う時だけ、二本と身体が一本の通路になる。
◆ 通路
受けた光は、受けたままだった。
黒刃が原光を奪い、左手へ通す。
左腕、胸、右腕を抜け、白刃から外へ出る。
白と黒が混ざったわけではない。
光の精霊王の力を、セトの属性へ変えたわけでもない。
異なるものを異なるまま、一つの経路へつないだだけだった。
白刃から放たれた光が正面の奔流を押し返す。
光の精霊王が放った力が、自分と同じ原光によって割られた。
湖の上で白い光が左右へ弾ける。
「道が開いた!」
シアが叫ぶ。
セトは地面を蹴った。
一歩目で、身体が想定より遠くへ飛んだ。
「っ!」
大量の原光が身体を通った影響で、脚、背中、肩まで力が引き上げられている。
意識して配分したものではない。
胸を横切る大きな流れに引かれるように、身体全体の動きまで押し上げられていた。
極炎を握っている時に近い加速だった。
しかし、シアが調整しているわけではない。
必要な瞬間に必要な分だけ送られているのでもない。
「速すぎる!」
シアの声が追う。
セトは白刃を地面へかすらせ、身体を無理に立て直した。
力を得たのではない。
壊れるほど流した結果、身体まで強く動いているだけだった。
踏み込みが大きくなるたび、足裏へかかる感覚もずれていく。
自分の筋力が急に増えたのではないから、いつもの剣術の距離感までそのまま拡大できるわけではない。
速さを得た分だけ、止まる位置まで自分で覚え直す必要があった。
※第45話「極剣と絶剣」は全七回です。
続きます。
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