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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第45話 極剣と絶剣

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(一)同じ二本ではない

◆ 白と黒の刃


 白い光が放たれた。

 湖面を覆う太さのまま、セトたちへ迫る。

 セトは左手の黒刃を前へ出した。

 黒い刀身が光へ触れ、触れた部分から原光を奪う。

 白い奔流の中央に、細い黒い切れ目が生まれた。


 だが、狭い。

 絶光ならネアが流れを読み、セトの剣技に合わせて広く曲げられた。

 今あるのは、セトが一人で形作った黒刃だけだった。


「右へ!」


 背後からシアの声が飛ぶ。

 セトは白刃を振り下ろした。

 白い斬撃が奔流の右側を割り、黒刃で作った切れ目とつながる。

 人一人が通れるだけの隙間ができた。


 セトはそこへ飛び込む。

 左右を光が通り過ぎ、背後の地面が白く崩れた。

 岩が砕けたのではない。

 形そのものが曖昧になり、次の瞬間には別の盛り上がりへ変わっている。


 セトは着地した。

 黒刃の輪郭が揺らいでいた。

 処理しきれなかった原光が左手へ押し寄せ、術そのものを崩そうとしている。


「黒刃が消える!」


 今度はシアではなく、流れを見ていたネアの声だった。


「分かってる」


 セトは黒刃を握り直した。


 背後でシアが踏み出しかけ、足を止めた。

 足元に火花が散る。だが、光の奔流へ飛び込めるほどの炎は出なかった。

 極炎の亀裂を塞ぐたび、シアは自分と分霊核に残した力を削ってきた。

 人型へ戻ったからといって、その力が戻るわけではない。


 ネアも黒い分霊核を前へ寄せた。

 セトの横を抜けた光を曲げようとしたが、細い流れをわずかに逸らすだけで精一杯だった。

 絶光の時のように広く受け止めれば、残る力まで一度に失う。

 正面へ出ても、二人には次の一撃を受けきれない。

 セトが二本の刃で作る細い隙間へ入れば、かえって守られる者を増やすだけだった。


 背後の地面も崩れ続けている。

 二人がセトから離れれば、もう光を防ぐ術がない。

 だからシアとネアは、その後ろで分霊核を浮かべ、光の流れと退路を見張っていた。

 ここで無理に力を足せば、セトを助ける前に自分たちの余力が尽きる。

 それを三人とも分かっていた。


◆ 同じ二本ではない


 白刃と黒刃は、ずっと使ってきた二本だった。

 だが、さっきまで握っていた極炎と絶光の代わりにはならない。


 黒刃は触れた場所から原光を奪える。

 それでも、ネアのように遠くの流れを読み、広い光を必要な方向へ曲げることはできない。

 白刃は高い密度で切れる。

 だが、シアのようにセトの踏み込みへ合わせて炎を送り込み、身体ごと加速させることはできない。


「同じ形にはならないな」


 セトが言う。


「当たり前だ!」


 シアが即座に返した。


「私が極炎だったんだから、白刃だけで同じになるわけないだろ!」

「絶光も同じです。黒刃には黒刃の役割があります」


 ネアは光の精霊王を見たまま続ける。


「ですが、今の二本では先ほどの戦い方を再現できません」


 四枚の翼の間へ、また白い光が集まり始めている。

 極炎と絶光へ戻せば、次の一撃を弾けるかもしれない。

 しかし、二人の分霊核は弱り、二本の精霊剣にも亀裂の跡が残っていた。

 もう一度大きく割れれば、その先に人型へ戻るだけの余力が残る保証はない。


 セトは白刃を右へ、黒刃を左へ構えた。

 二本はまだ使える。

 足りないのは刃の数ではなかった。


 今まで二人が担っていた部分を、人間一人では支えきれない。

 極炎と絶光は、強い剣が二本あったから成立した戦いではない。

 シアが加速と出力を合わせ、ネアが流れを読み、セトが二本を置く場所を決めていた。

 三人分の役割が、今はセト一人へ戻っている。

 白刃と黒刃が同じ二本に見えても、失われたものの方が大きかった。


◆ 止める身体


 黒刃が周囲の原光を奪い続ける。

 その一部が左手へ向かった瞬間、流れが止まった。

 黒刃の出力が勝手に落ちる。

 左腕もわずかに引き、正面から刃を外そうとした。


「まただ」


 セトには、その動きが分かった。

 以前、自分の二本を細かく調べた時にも見つけている。

 黒刃だけで処理しきれない原光が身体へ入ろうとすると、まず流量が絞られる。

 それでも危険なら黒刃が弱くなる。

 さらに続けば、術そのものを解除しようとする。


 身体が傷つく前に、身体自身が戦いを止める。


「セト、何を見てる?」


 シアが尋ねる。


「止めてる場所」

「何を?」

「俺を」


 セトは左手へ向かう細い流れを見る。

 黒刃にはまだ原光を奪う余裕がある。

 止まっているのは刃ではない。

 その先にいる自分だった。


 光の精霊王が腕を上げる。

 次の光が収束を始めた。

 白刃だけでは受けられない。

 黒刃は受けられる量へ届く前に、自分から弱くなる。


 正常だった。

 壊れないための働きとしては、何も間違っていない。


 だからこそ、それを外せば何が起きるかも分かっていた。

 安全制限は邪魔をしているのではない。

 今の出力では腕が壊れる、胸まで通せば回路が持たないと、身体の方が先に判断している。

 黒刃を弱めるのも、手を引くのも、全部同じ目的だった。

 セト自身が止めない限り、その判断は正しい。



※第45話「極剣と絶剣」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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