(四)細い道
◆ 広く切れない
絶光を低く構える。
光の精霊王へ直接向けるのではない。
四枚の翼へ集まる原光の流れを狙う。
『少し広く消します』
ネアの声と同時に、黒い分霊核が左右へ開いた。
湖面から上がる流れ。
岩場から伸びる流れ。
その間へ絶光を振り抜く。
原光が薄くなる。
白い翼の片側が、一瞬だけ暗くなった。
「今だ!」
セトが極炎へ力を込める。
だが、足元の炎がいつもより弱い。
『待って、こっちも薄い!』
シアが叫んだ。
極炎が周囲から使える原光まで減っている。
セトは踏み込みを止めた。
「広すぎる」
『はい。相手だけを切り離すつもりでも、その空白を通るこちらも影響を受けます』
ネアが絶光の範囲を戻す。
「全部切るのはなしだ」
『細くします』
「俺たちが通る場所は残せる?」
『一本の線なら』
広く消せば、光の精霊王への供給は弱まる。
だが同時に、極炎が加速と突破へ使う力も減る。
絶光一つで相手だけを無力化することはできない。
『じゃあ、相手に戻るところだけ切る』
シアの言葉に、ネアが答えた。
『正確には、その一部だけです』
完全に止めるのではない。
数秒だけ、片側を細く断つ。
次の一撃に必要なのは、それで十分だった。
ネアは黒い核の位置を狭める。
先ほどのように面で原光を薄くするのではなく、戻る流れへ細い切れ目を作る配置へ変えた。
相手を弱らせ続けるためではない。
極炎が膜へ届く数秒だけ、相手の回復と防御へ入る量を落とすための使い方だった。
◆ 細い道
黒い分霊核が左右へ離れる。
一個が湖面から上がる流れを少しだけ外へ曲げる。
もう一個が岩場から伸びる流れを弱めた。
『ここです』
ネアの声に合わせ、セトが絶光を振る。
今度は広く消さない。
光の精霊王の右側へ集まる流れだけを、細い線状に断った。
白い翼の片側がわずかに暗くなる。
同時に、セトの足元には原光が残っている。
『今なら行ける!』
二個の赤い分霊核が極炎へ力を送る。
一個は出力が落ちている。
それでも二つを同じ場所へ重ねれば、一度の加速には使える。
極炎が赤く燃え上がった。
セトは光の薄い線の内側へ踏み込む。
炎が背後へ伸びた。
光の精霊王が上へ逃げる。
右側の赤い分霊核が一度だけ炎を放つ。
セトの進路が斜め上へ折れた。
そこで二度目の追跡はしない。
相手がさらに外れる前に間合いへ入る。
四枚の翼が動く。
白い膜が人型の前へ現れた。
『片側の流れが弱いです』
ネアが言う。
「なら、そこを通す」
セトは極炎を正面へ突き出した。
細く切った場所の外側では、白い流れがまだ翼へ集まり続けている。
完全な遮断ではない。
だから光の精霊王も動ける。
それでも、全方向から均等に満たされていた時とは違う。
狙うのは弱った瞬間ではなく、流れに偏りができた瞬間だった。
偏りが消えれば、そこで追撃は切る。
細い道を長く維持しようとすれば、結局は絶光と黒い核の消耗が増える。
ここでも必要なのは、勝つまで続く道ではなく、一撃分だけの道だった。
◆ 届いた一撃
極炎が白い膜へ突き刺さる。
先ほどより抵抗が軽い。
片側の翼へ入る流れを削った分、膜全体へ回る力が少ない。
「極炎!」
『行け!』
セトとシアの力が一瞬だけ重なる。
赤い刀身が膜を割り、そのまま内側へ入った。
今度は光の精霊王が逃げる前に懐へ入る。
極炎を横へ振る。
白い人影の胴へ、赤い斬撃が通った。
上半身と下半身をつなぐ光が大きく崩れる。
四枚の翼が乱れ、光の精霊王が初めて大きく傾いた。
『効いた!』
シアが叫ぶ。
「まだだ」
セトには、崩れた人影の内側に強い白い流れが残っているのが見えた。
形を切った。
だが、流れの中心まで断ち切ったわけではない。
絶光で切った右側の線へ、別方向から原光が回り込む。
湖面側を避け、上と左から翼へ流れ込んだ。
『さっき切った場所を通っていません』
「迂回した?」
『はい。一本の供給路ではありません』
傷へ白い光が集まり始める。
胴を大きく崩した一撃さえ、四翼が周囲全体から原光を集め直せば埋められていく。
しかも、切られた人型が先に直るわけではない。
翼へ集まった流れが全体を巡り、その一部が傷へ回っている。
人型の傷だけを増やしても、周囲とのつながりが残っている限り決定打になりにくい。
少なくとも今の一撃で、それだけははっきりした。
『回復が早すぎます』
「一回切っただけじゃ止まらないな」
『来ます!』
白い人影が傾いたまま、四枚の翼を大きく開いた。
※第44話「光を弾く二本の剣」は全六回です。
続きます。
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