(三)戻っていく光
◆ 最初の亀裂
近距離から光が放たれた。
避ける距離はない。
セトは絶光を前へ出し、極炎を横から重ねた。
絶光が中央の流れを左右へ分ける。
分かれた光を、極炎の火力で押し返す。
完全に止めたわけではない。
身体の正面だけを空け、残りを左右へ捨てる。
それでも衝撃は重かった。
セトの身体が後方へ飛ばされる。
湖面すれすれを通り、岸へ向かって落ちた。
極炎を下へ向ける。
炎を噴き出し、落下の勢いを殺す。
足が地面へ着いた瞬間、右手から細い音がした。
「ヒビが」
極炎の刀身に一本の亀裂が入っている。
『問題ない。直す!』
赤い分霊核が一個、極炎へ近づく。
核に蓄えられた力が刀身へ流れ込み、亀裂の周囲を炎が包んだ。
割れた形が内側からつながっていく。
傷は塞がった。
だが、核の赤い光は明らかに弱くなった。
「核だけで直した?」
『違う。私の力も使ってる』
シアが答え、ネアが続ける。
『分霊核は補助です。極炎そのものを形作っているのはシアです』
ネアの説明を聞きながら、セトは修復した場所を見る。
傷は消えている。
消耗まで戻ったわけではなかった。
修復された刀身は元と同じ形に見える。
だが、その形を保つために流れている赤い力は、戦闘開始時よりわずかに細い。
見た目だけを見れば無傷でも、次に同じ衝撃を受けた時の余裕まで元へ戻ったわけではない。
セトには、その差が分かり始めていた。
◆ 減った射点
修復を終えた赤い分霊核は、すぐには元の位置へ戻らなかった。
極炎の近くで光が安定するのを待っている。
「今、右へ置ける赤は一個だけか」
『うん。もう一個も動かせるけど、さっきほど出せない』
シアが答える。
「じゃあ一個でいい」
亀裂を直せたから元通り、ではない。
核を修復へ回した分だけ、別の場所から炎を出す余裕が失われている。
『黒も同じです』
ネアが続ける。
『絶光が大きく損傷すれば、黒い分霊核を修復へ回す必要があります。その間は偏向の補助が減ります』
「攻撃を受けるたび、残りの手が減るのか」
『そうなります』
セトは四個の核を見る。
最初は四つの独立した射点だった。
今は一つが修復直後で出力を落としている。
最初なら左右どちらへ光が回っても、赤と黒の核を別々に置いて対応できた。
今は一つを動かせば、別の場所が空く。
修復に使った力は単なる残量ではなく、選べる位置取りの数まで減らしていた。
「次は正面から受けない」
『それがいい』
「近づく前に、戻ってる方も見る」
『回収の流れですね』
「ああ。こっちだけ減って、向こうだけ戻るなら長くはやれない」
光の精霊王が再び散乱光を放つ。
セトは絶光を傾けた。
今度は受け止めるのではなく、必要な幅だけを外へ流す。
空いた道へ、極炎の炎が伸びた。
◆ 戻っていく光
絶光で一部を曲げ、極炎の加速で隙間を抜ける。
セトの後方で細い光が岩を貫いた。
崩れた岩の周囲へ白い粒子が広がる。
粒子はその場に残らない。
弧を描き、四枚の翼へ戻っていった。
『やはり回収しています』
ネアが言う。
「こっちが弾いた分もか」
『すべてではありません。しかし、消えずに残ったものは戻っています』
極炎で押し返した光。
絶光で曲げた光。
地面へ当たり、岩や水を変化させた光。
使われた力の一部が周囲へ残り、それを翼が拾っている。
『こっちの炎まで吸われてる?』
シアが尋ねる。
『シアの火そのものを回収しているようには見えません。戻っているのは、主に相手が放った原光です』
ネアは流れを追いながら答えた。
こちらが弾いたからといって、相手の消耗になるとは限らない。
攻撃を外へ流しただけなら、その一部はまた翼へ戻る。
対して極炎と絶光が失った力は、そのままシアとネアの消耗になる。
もちろん、光の精霊王が放った分のすべてが戻っているわけではない。
地形を変えた分、遠くへ散った分、絶光で消した分は失われている。
それでも、こちらが使った力には同じ回収がない。
少しずつでも戻る側と、使うたび減る側では、時間が延びるほど差が広がる。
「弾くだけじゃ駄目だ」
『戻る流れを止めますか』
「ああ。一部でいい。近づく間だけ切る」
セトは四翼そのものではなく、そこへ向かって集まる無数の細い流れを見た。
※第44話「光を弾く二本の剣」は全六回です。
続きます。
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