(三)白炎と魔剣
◆ 白炎と魔剣
セトが地面を蹴った。
シアが足元へ火を置く。
火を踏み、一気に加速する。
白炎を振り下ろした。
グラウスが赤黒い剣で受ける。
白い火と赤い火がぶつかった。
道の両側へ熱が流れ、木々が大きく揺れる。
赤黒い剣が白炎の力を吸い始めた。
だが、追いついていない。
シアから渡された火が大きすぎる。
吸われる以上の力を、セトが白刃へ流し続ける。
「押してる」
「ああ」
シアがさらに火を送る。
白炎が強くなる。
グラウスの足が、石の上を滑った。
赤黒い剣が押し下げられる。
セトは白炎をいったん弱めた。
力を刀身の形へ回す。
受け止める感触が変わり、グラウスがわずかに体勢を崩した。
その瞬間、再び炎を強くする。
白い火が爆発するように広がった。
グラウスの体が後ろへ押し飛ばされた。
◆ 通じた一撃
グラウスは道を滑りながら、赤黒い剣を石へ突き立てた。
ようやく止まる。
旅装の肩が焦げていた。
赤黒い剣を握る手から、薄く血が流れている。
「傷をつけた」
シアが言う。
「まだ浅い」
セトは白炎を構えた。
腕が重い。
シアの火に焼かれてはいない。
だが、大きな力を白刃の形へ保ち続ける負担が、肩から指先まで広がっている。
「もう一度いけるか」
「セトが持てるなら」
「やる」
グラウスが立ち上がった。
傷を見ても、表情は変わらない。
「悪くない」
「余裕があるようには見えないな」
「力の大きさは十分だ」
グラウスは赤黒い剣を軽く振った。
「だが、使い手の方が追いついていない」
剣から火があふれる。
先ほどシアから吸ったもの。
それより前から蓄えられていたもの。
そして、先代イフリートから奪った火。
いくつもの炎が混ざり合い、赤黒い剣を包んだ。
◆ 先代の炎
シアが息を止めた。
「それは……」
「分かるか」
グラウスが剣を持ち上げる。
「お前の前にいたイフリートの力だ」
赤い炎が揺れる。
シアと同じ火。
だが、シアのものではない。
継承された知識の奥にある、火の属性としての近さ。
それでも、そこに先代の意思はなかった。
グラウスが剣を振る。
炎が地面を走った。
セトは白炎で斬る。
白と赤の火がぶつかり、互いを押し合った。
赤い炎の方が広い。
白炎は細い。
だが、セトは広がる火の中心だけを斬り、流れを左右へ分けた。
「右だ」
シアが言う。
セトは迷わず右へ動いた。
左側を通った炎が地面を焼く。
シアが見つけた火の薄い場所を、セトが進む。
白炎を振る。
グラウスが受ける。
◆ 剣技
白炎と赤黒い剣がぶつかる。
今度は、力ではセトが上だった。
それでも、グラウスは押されない。
白炎の強い場所を避け、刀身の根元へ赤黒い剣を当てている。
白刃の向きをわずかにずらし、炎の流れを外へ逃がす。
セトが力を込めるほど、剣先が目的の場所から外れていく。
「力だけでは剣にならん」
グラウスが言う。
「知ってる」
「知っている者の動きではない」
赤黒い剣が白炎の側面を滑る。
セトの右腕が外へ開いた。
グラウスは懐へ入る。
肩がぶつかる。
足を払われた。
セトの体が傾く。
倒れる前に、シアの火が足元で弾けた。
押し戻され、体勢を立て直す。
白炎を横へ振る。
グラウスは身を引いた。
「人間の動きまで支えるか」
「悪いか」
「いや」
グラウスの笑みが深くなる。
「ますますいい」
◆ 黒刃の割り込み
セトが白炎で連続して斬り込む。
グラウスは赤黒い剣だけで受けていた。
シアの火が左右から迫る。
正面には白炎。
赤黒い剣だけでは、すべてに対応できない。
グラウスの左手に、再び黒刃が生まれた。
シアの火へ黒刃を向ける。
炎を形作る精霊力が崩れ、赤い光が消えた。
続けて白炎の側面へ触れる。
白い炎が大きく乱れる。
「セト!」
「分かってる!」
白刃へ力を集め直す。
崩れた場所を再び固定する。
その間に、赤黒い剣が迫った。
セトは白炎で受ける。
力を吸われる。
反対側から黒刃が来る。
白炎の形を崩される。
二本の剣が、異なる方法で白炎を削っていく。
シアが火を送る。
セトが形を戻す。
壊されるたびに、二人で作り直す。
※第8話「奪われた炎」は全七回です。
続きます。
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