(二)揃い始めた条件
◆ 先に動く火
グラウスが剣を横へ振る。
赤い炎が刀身から放たれた。
シアの炎ではない。
剣に蓄えられていた火だった。
道を覆うほどの炎が、セトへ迫る。
「避けろ!」
シアが叫ぶより早く、セトの足元へ小さな火が置かれた。
踏み込む。
炎が弾け、セトの体を横へ押した。
赤い炎が直前までいた場所を通過する。
セトは転がりながら白刃を投げた。
短剣状の刃がグラウスへ飛ぶ。
グラウスは赤黒い剣で弾いた。
その直後、シアの火が反対側から迫る。
剣で吸うには、体の向きを変えなければならない。
グラウスが火を避けた。
初めてだった。
「今のだ」
セトが立ち上がる。
「ああ」
シアが答える。
どちらも、相手へ次の指示を出さなかった。
セトが前へ出る。
その進路へ、シアが火を置く。
火を踏み、加速する。
グラウスの赤黒い剣が正面から迫る。
セトは白刃を短くして受け流した。
シアの火がグラウスの背後へ回る。
グラウスは避ける。
そこへセトの斬撃が届く。
◆ 黒い剣
白刃がグラウスの肩へ迫った。
赤黒い剣は、シアの火へ向いている。
間に合わない。
そのはずだった。
グラウスの空いている左手に、黒い剣が現れた。
光を集めたものではない。
剣の形に切り取られたような黒。
セトの白刃が触れる。
白い刀身が大きく崩れた。
集められた精霊力が、接触した場所から失われていく。
「黒刃……」
セトが距離を取る。
「なぜ、お前が使える」
「お前だけの術ではない」
グラウスは右手に赤黒い魔剣。
左手に黒刃を持っている。
二本の剣を同時に構えていた。
「白刃と黒刃を知っていると言っただろう」
「同時に使っているのか」
「見れば分かる」
先ほどセトがシアへ言われた言葉を、そのまま返される。
「禁じられているはずだ」
「誰に禁じられた」
「一族にだ」
「一族の決まりに従えば、強くなれるのか?」
グラウスは黒刃を軽く振った。
触れていない周囲の精霊力まで、わずかに乱れる。
「使える力を使わない理由にはならん」
◆ 二本の剣
グラウスが前へ出た。
赤黒い剣がセトの白刃を狙う。
受ければ、力を吸われる。
避けた先へ、黒刃が振られる。
白刃へ触れれば、形そのものを崩される。
どちらも、まともに受けられない。
セトは後ろへ下がった。
赤黒い剣の切っ先が胸元を通る。
黒刃が白刃の側面へ触れた。
刀身の半分が消えた。
セトは残った白刃も自分で消し、新しく短剣を作って投げる。
グラウスは黒刃で触れた。
白い短剣が空中で崩れる。
「相性が悪いな」
「それだけではない」
赤黒い剣が振られる。
セトは身をかがめた。
頭上を刃が通る。
次に来る黒刃を避けようとした時、グラウスの膝が腹へ入った。
セトの体が折れる。
肩をつかまれ、道へ投げられた。
背中を強く打つ。
「セト!」
シアの周囲で炎が大きく膨らんだ。
◆ 大きな火
「待て!」
セトが叫ぶ。
シアが放とうとしている火は、これまでとは違う。
林全体を赤く染めるほどの光が集まっていた。
「吸われるぞ!」
「全部は吸えない」
シアは炎をグラウスへ向けなかった。
起き上がったセトへ向ける。
「白刃を出せ」
「この量を乗せるのか」
「ああ」
グラウスの目が細くなる。
セトは右手を伸ばした。
白い光が集まり、白刃を形作る。
シアが両手を前へ出した。
大きな炎が、一気に白刃へ流れ込む。
赤い火が刀身へ触れる。
白い光へ変わる。
白炎がセトの全身を包みそうなほど大きく燃え上がった。
熱い。
だが、焼かれてはいない。
シアの炎は、セトを避けて白刃へ集まっている。
セトは柄を握り直した。
流れ込む力を、そのまま放出しない。
炎の大きさを抑え、刀身の形を保つ。
「持てるか」
シアが尋ねる。
「持たせてから聞くな」
「無理なら減らす」
「このままでいい」
白炎の中で、白刃の輪郭が強く輝いた。
◆ 揃い始めた条件
グラウスは攻撃しなかった。
白炎を見ている。
力の大きさではない。
シアとセトを交互に見ていた。
「イフリートが、人間にこれほど大きな力を託すか」
グラウスが低く笑う。
「そろそろ条件が揃ってきているな」
「何の条件だ」
セトが尋ねる。
グラウスは答えなかった。
赤黒い魔剣を見下ろす。
「やはり魔剣はいい」
刀身の奥で、先代から奪われた火が燃えている。
「神剣なんかよりも、ずっと分かりやすい」
「神剣?」
「お前が知る必要はない」
グラウスは黒刃を消した。
赤黒い剣を両手で構える。
「見せてみろ。その人間が、預けられた力をどこまで扱えるのか」
※第8話「奪われた炎」は全七回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/




