(一)二本の精霊剣
◆ 湖へ戻る
三人が湖へ戻ると、光の精霊王は先ほどより高い位置へ浮かんでいた。
四枚の翼が白く広がっている。
湖面から細い光が立ち上がり、翼へ吸い込まれていた。
水だけではない。隆起した岩。焼けた草木。地面に残った光の跡。
周囲に散らばる原光が、絶えず光の精霊王へ集まり続けている。
湖岸の形も、離れる前とは少し変わっていた。
白い光を受けた場所が盛り上がり、別の場所は水に沈んでいる。
さっき足場に使った岩も半分が崩れていた。
同じ場所へ戻ってきても、同じ地形では戦えない。
「まだ強くなってる」
シアが言った。
「少なくとも、弱くはなっていません」
ネアが答える。
先ほどより身体が大きくなったとは言えない。
翼の大きさも、目に見えて変化してはいない。
それでも、光の精霊王から感じる圧力は下がっていなかった。
「予定通りだ。絶光で正面をずらす。極炎で抜ける。追い回さない」
セトが確認する。
「分霊核は進路補助だ」
セトが続ける。
「はい。黒は偏向の補助へ回します」
三人の視線がそろって光の精霊王へ向く。
光の精霊王が腕を上げた。
その先へ白い光が集まり始める。
先ほど湖岸を貫いたものより太い。
「来るぞ」
セトが足を止める。
「ここで変わる」
シアが前へ出た。
「わたしもです」
ネアも並ぶ。
二人の身体が、赤と黒の光へ変わった。
◆ 二本の精霊剣
赤い光がセトの右手へ集まる。
炎を内側へ抱えた剣となり、周囲の空気を揺らした。
極炎。
黒い光は左手へ収束する。
光を反さない黒い刀身が形作られ、その周囲から原光が薄く抜け落ちていく。
絶光。
二本を握った瞬間、強い力がセトの身体へ流れ込んだ。
極炎から来る力が、脚、背中、肩を押し上げる。
絶光からは、周囲を流れる原光の向きが伝わってくる。
二人の感覚が左右から重なった。
同じものにはならない。
赤い流れと黒い流れは別々のまま、セトの身体を通っている。
二個の赤い分霊核と、二個の黒い分霊核もセトの周囲へ移動した。
四個の核が互いに重ならない位置へ広がる。
『正面は私が見ます』
ネアの声が絶光から伝わる。
『近づくのは私がやる』
極炎からシアの声が続いた。
「黒は全部止めようとするな」
『はい。通る場所だけ作ります』
「赤も追跡には使わない。一回ずつだ」
『分かってる』
セトは二本を構えた。
右手は突破。
左手は偏向。
四個の核は、そのどちらにも足りない部分を補う。
光の精霊王には、自由に飛ぶ四枚の翼がある。
こちらには、それぞれ別の役割を持つ二本の剣がある。
同じことをしようとは考えない。
セトは右手と左手へ入ってくる感覚を意識して分けた。
極炎は前へ出たがるように力を押し、絶光は周囲の流れを細かく伝えてくる。
両方を一つにまとめるのではなく、別々のまま使う。
それが二本を同時に持つ時の前提だった。
「行くぞ」
◆ 最初の光
光が放たれた。
直線だった。
湖の上を白く塗り潰しながら、岸へ伸びてくる。
『少し上です』
ネアの声に合わせ、セトは絶光を斜めに振り上げた。
黒い刀身が収束光の下側へ触れる。
正面から受け止めない。
流れの一部を奪い、上へ曲げる。
白い光が絶光の刀身に沿って方向を変えた。
空へ逸れた光が雲を切り、遠くで細く散る。
すべては曲がらない。
絶光の届かなかった外側が無数の細い光へ分かれた。
黒い分霊核が動く。
一個が左から来る光の流れへ干渉し、もう一個がセトの足元に届く光を外へ流した。
完全には消せない。
だが、人一人が抜けるだけの隙間はできる。
『今!』
極炎から力が流れ込む。
セトは地面を蹴った。
足元で炎が弾ける。
白い光の隙間を抜け、一気に湖へ向かう。
正面を押し返す必要はない。
絶光で幅を作り、極炎でその中を進む。
谷で決めた通りの形だった。
光の端がセトの肩をかすめる。
絶光がもう一度だけ流れを外へ逃がす。
最初の一撃は抜けた。
絶光が作った隙間は広くない。
セトが通った直後には、外へ流した光が後ろで再び重なり始めている。
立ち止まれば囲まれる。
広げすぎれば絶光の負担が増える。
必要なのは防壁ではなく、極炎が抜ける一瞬だけの通路だった。
問題は、その先だった。
※第44話「光を弾く二本の剣」は全六回です。
続きます。
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