(八)再び湖へ
◆ 分霊核の役目
「分霊核はどうする?」
シアが二個の赤い核を見る。
ネアの周囲にも、黒い核が二個浮いている。
「二人が動かせ」
セトが答えた。
「剣になっても?」
「できます」
ネアが言う。
「精霊剣状態でも、分霊核は使い手の周囲へ移ります。操作はわたしたちが行えます」
「なら、全部攻撃に回す?」
「いや」
セトは首を横へ振る。
「最初は補助だ」
「赤は?」
「左右から光を散らす。俺の進路へ集まりすぎないようにしてくれ」
「黒は?」
「絶光で曲げた先をさらに外へ逃がせるか?」
「可能だと思います。ただ、二個で広範囲を受け持つのは難しいです」
「全部じゃなくていい。中央へ戻ってくる分だけだ」
ネアが頷く。
「分かりました」
四個の分霊核を、火力を増やすためだけには使わない。
極炎と絶光だけでは足りない部分を、別の射点から補う。
「相手も翼で回収してる」
シアが言う。
「撃ちすぎると、こっちが減るだけじゃなくて向こうに戻るかもしれない」
「だから最初から大技の撃ち合いはしない」
セトは赤と黒の核を順に見る。
「分霊核は、道を作るために使う」
「地味だな」
「勝てるなら派手でもいい」
「今は?」
「まだ分からない」
シアは少し笑った。
「じゃあ地味に行く」
ネアはその横で、二個の黒い核の距離を少し広げる。
次の戦いでは、本人たちだけでなく四つの核も位置取りの一部になる。
◆ 長引かせない
「もう一つ」
ネアが言った。
「長時間の維持は避けるべきです」
「極炎と絶光の?」
「はい。それに分霊核も含みます」
光の精霊王は、戦いながら周囲から原光を取り込める。
放った力の一部まで翼へ戻している。
一方で、シアとネアは使った分だけ確実に減る。
「長引けば、差が広がる」
「前に見た通りです」
セトが頷く。
「じゃあ時間を決める?」
シアが尋ねる。
「時間より状態で切る」
「状態?」
「絶光で進路を作れなくなったら離れる。極炎の出力が落ちても離れる。分霊核の蓄えを大きく使い始める前にも切る」
ネアが少し考える。
「わたしたちのどちらかが、修復へ力を回さなければ維持できなくなった場合も離脱した方がよいでしょう」
「それも入れる」
勝てるかどうかだけを見て突っ込まない。
こちらの消耗が一定線を越えたら、相手がまだ動けていても離れる。
「それで届かなかったら?」
「次を考える」
シアが口を尖らせる。
「また考えるのか」
「考えずに突っ込むよりいいだろ」
「それはそう」
セトは湖の方角を見る。
相手の力はすでに分かっている。
だが、極炎と絶光を同時にぶつけた時、何が起きるかはまだ分からない。
「最初の一回で、倒す必要はない」
「でも、届くかどうかは見る」
「ああ」
次に必要なのは、推測ではなく実際の接触だった。
◆ 再び湖へ
三人は谷で短い休息を取った。
それ以上、箱の話には戻らなかった。
分からないものは残っている。
だが、それを今解く必要はない。
セトは腕と脚を動かし、身体の状態を確かめる。
先ほど白刃と黒刃を使った負荷は残っているが、動けないほどではない。
「シア」
「大丈夫」
「ネア」
「問題ありません」
二人の返答を確認し、セトは立ち上がった。
赤と黒の分霊核が、それぞれ二個ずつ浮かぶ。
「最初は絶光で中央をずらす」
「はい」
「極炎でそこを抜ける」
「分かった」
「分霊核は道を維持する補助。追い回さない。維持が崩れたら離れる」
「了解」
「承知しました」
役割は決まった。
あとは実際にやってみるしかない。
三人は谷を出る。
遠くで、光の精霊王の四枚の翼が白く広がっていた。
羽ばたかず、周囲の原光を集めながら空中を移動している。
翼が何なのか。
閉じられた知識の中に何があるのか。
まだ分からない。
それでも、今使える力まで分からないわけではない。
「行くぞ」
セトが歩き出す。
シアとネアが左右へ並んだ。
白い光が、湖の上で再び収束し始める。
三人は足を止めない。
閉じた知識ではなく、今ある二本の精霊剣で、どこまで届くか確かめるために。
赤と黒の分霊核を従え、三人はもう一度、光の精霊王へ向かった。
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