(七)二本で行く
◆ 今は触れない
「結局、開け方は分からないんだな」
セトが確認する。
「分からない」
シアが答えた。
「わたしもです」
ネアも同意する。
「危険の種類も?」
「それも分かりません」
セトは短く息を吐いた。
「なら終わりだ」
「ずいぶん早いな」
「分からないものを、今の戦力には数えない」
シアは一瞬だけ黙り、それから頷いた。
「知識を調べるのもやめる?」
「違う。無理に開けようとするのをやめる。見えてる範囲を調べるのはいい」
「その方がよいと思います」
ネアも頷く。
「閉じられている理由が分からない以上、開くこと自体を成果にはできません」
「光の精霊王に勝てそうだから開ける、もなし?」
「なしだ」
セトは即答した。
「今の相手を止めるために、何が起きるか分からないものを増やしてどうする」
「それはそうだな」
シアは肩をすくめる。
箱は残る。
疑問も残る。
だが、疑問が残っていることと、今それを解かなければならないことは別だった。
「開ける条件があとで分かったら?」
「その時考える。今決めることじゃない」
遠くでまた白い光が空へ伸びる。
谷の入口が一瞬だけ明るくなった。
「待ってくれない相手もいるしな」
「はい」
ネアは湖の方角へ目を向けた。
閉じた知識の話は、そこでいったん終わった。
次に決めるべきなのは、既に知っている力をどう使うかだった。
◆ 二本で行く
「使えるもので戦う」
セトは谷の出口から湖の方角を見た。
白刃と黒刃では、広範囲の光を処理しきれない。
人型のシアとネアが放った力だけでは、光の精霊王へ十分な圧力をかけられない。
だが、二人にはまだ使っていない形がある。
「極炎と絶光」
シアが言った。
「そうだ」
「二本とも最初から?」
セトは少し考える。
「使う。ただし、役割を分ける」
「どうする?」
「絶光で全部止めようとしない」
ネアが反応する。
「偏向だけに使うのですね」
「ああ。あの光を正面から全部受ける必要はない。俺たちに当たる分だけ外へ逃がす」
「その方が負担は少ないです」
絶光は、原光の流れへ干渉する。
大きな力そのものを消すのではなく、進路をずらすだけなら、真正面から押し合うより消耗を抑えられる。
「で、できた隙間から極炎で近づく」
「私が道をこじ開ける?」
「剣になるのはお前だ」
シアが一瞬止まる。
「あ、そうか」
「自分で飛ぶ話じゃない」
セトが返すと、ネアが小さく息を漏らした。
「笑った?」
「いいえ」
「今笑っただろ」
わずかな軽口のあと、三人の視線が再び湖へ戻る。
「極炎は攻撃だけに使わない」
セトが続けた。
「踏み込むための加速にも使う」
「了解」
目的は最初から倒し切ることではない。
二本の精霊剣で、どこまであの光へ近づけるか。
まずはそれを確かめる。
◆ 偏向と接近
「絶光でどこまで曲げられるかは、さっきより厳しくなります」
ネアが言った。
「人型の時と違う?」
「精霊剣なら出力は上がります。ただし、相手の光も一点ではありません」
光の精霊王は、細い収束光だけでなく広く押し広げる光も使う。
絶光で一本を曲げても、その外側から別の光が回り込む可能性がある。
「全部を一本の壁みたいに受けるのはやめる」
「進路だけ作る?」
「そうだ」
セトは地面へ指で線を引いた。
正面からまっすぐ光の精霊王へ向かう線。
その左右へ、少しずつ外へ開く二本の線を足す。
「中央だけ俺たちが通れる幅にずらす。外側は触らない」
「それなら、絶光を広げすぎずに済みます」
「極炎はそこを一気に抜ける」
シアが地面の線を見る。
「途中で向こうが横に動いたら?」
「追わない」
「え?」
「最初から動いた相手を追い回したら、こっちだけ消耗する。向こうが外れたら一度切る」
「一回離れる?」
「ああ」
光の精霊王は自由に飛ぶ。
こちらより方向転換も速い。
だから移動勝負を始めた時点で不利になる。
「近づけるかを確かめる。一撃入れられるなら入れる。外されたら離れる」
「倒すための突撃じゃないんですね」
「最初はな」
ネアは地面の線を見ながら頷く。
「目的を一つに絞るなら、その方がよいでしょう」
相手のすべてへ対応しようとしない。
一度目は、二本の精霊剣があの光にどこまで耐えられるかを見る。
その結果が次の判断材料になる。
※第43話「鍵のかかった知識」は全八回です。
続きます。
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