(四)柱と礎
◆ 大地へ残す
ネアが次に拾ったのは、役割と知識を自分の内側から外へ出す方法だった。
「自分の役割と知識を、大地の記憶へ焼き付ける方法です」
「……ミレナのことか」
セトがすぐに気づく。
ネアは頷いた。
「はい。過去の風の精霊王が実際に使っています」
「風の精霊王が人間に近づくために使ったやつ?」
「結果としてはそうなりました」
過去の風の精霊王は、自分の役割と知識を大地側へ残し、自分だけで抱えない状態を作った。
それによって精霊王としての在り方を弱め、人間に近い存在へ寄せた。
そして人間との間に子を残した。
大地へ残された役割と知識は、その精霊王に近しい存在へ渡り、子へ、その子孫へと継がれていった。
長い時間を経て、その役割を受け継いでいたのがミレナだった。
「じゃあ、危ないだけの知識じゃないな」
セトが言う。
「そうですね」
ネアは自分の手を見る。
「必要な状況で正しく使われれば意味があります。ですが、役割と知識は精霊王が精霊王であることの大きな部分です。それを自分から切り離す方法でもあります」
「試して確かめるようなものじゃない?」
「はい。成功した時点で、自分の在り方が変わる可能性があります」
ミレナという実例を知っているからこそ、単なる昔の禁じられた術では片づけられない。
役割を未来へ残すこともできる。
人と精霊王の間に、新しい継承の形を作ることもできる。
「でも、使い方を間違えたら戻せるか分からない」
「その通りです」
これも箱の外にある。
内容まで取り出せる既知の知識だった。
それなのに、箱のすぐ近くへ置かれている感覚がある。
「悪い知識じゃなくて、重い知識か」
「その表現の方が近いですね」
ネアは静かに答えた。
◆ 柱と礎
「もう一つある」
シアが目を閉じたまま言った。
「柱」
「何の柱だ」
「建物じゃない。剣の中に誰かを入れる」
「精霊剣か?」
「違う。先に剣がある」
シアは眉を寄せる。
「中身を失った剣みたいなものに、巫女……たぶん、人間を入れる。そうすると剣の力が上がる」
「それ、魔剣じゃないのか」
セトが言う。
ネアも同じところへ辿り着いた。
「構造だけを見るなら近いと思います。魔剣は、精霊王が死んだ後に残った空の剣状の器です。後から力を蓄えることができます」
「聖剣もあったな」
「はい」
人間が聖剣と呼ぶものの中には、構造上は魔剣でありながら、人や魔獣から奪うのではなく、太陽光や火山、落雷など自然の力を長い年月かけて蓄えたものがある。
「でも、これは待たない」
シアが言った。
「自然から少しずつ溜めるんじゃない。人間の側が、特別なやり方で力を入れる」
「巫女を剣に入れて?」
「たぶん。それを柱って呼ぶ」
ネアが続ける。
「わたしには『礎』という表現が近く感じられます。空の器へ適合する人間を入れ、その存在で剣を補い、力を引き上げる。その程度までなら拾えます」
「入った人は戻れるのか」
「分かりません」
「中で意識が残る?」
「それも分かりません」
実際に使われた例は、二人の継承知識には出てこない。
方法の断片だけが残っている。
「その剣を、聖剣とか神剣って呼ぶこともあるみたいだ」
シアが言う。
「魔剣なのに?」
「呼び名と構造は別なのでしょう」
ネアが答える。
「聖剣と呼ばれていても構造上は魔剣だった例を、わたしたちは知っています。逆に、創界のように本当に神格由来の神剣もあります。名前だけで同じものとは判断できません」
「柱と礎の方は、空の器に人間側から特殊な方法で力を足す知識ってことか」
「今拾える範囲では、そう見えます」
自然から長い時間をかけて蓄える聖剣とは違う。
人間を剣へ入れ、その存在を支えとして出力を引き上げる。
「戻れるか分からないなら、十分ヤバいな」
「はい。試して確認する方法ではありません」
その断片も、箱のすぐ近くにあった。
※第43話「鍵のかかった知識」は全八回です。
続きます。
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