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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第43話 鍵のかかった知識

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(三)置き場所が悪い

◆ 別の道から


「言葉が悪いだけかもしれません」


 ネアが目を閉じた。


「四翼という名称から離れてみます」


 ネアは機能を一つずつ辿る。

 外界から原光を取り込む。

 身体の外で流す。

 移動へ使う。

 放出した力の一部を戻す。

 長く存在を維持する。

 四翼という形ではなく、それを成立させている機能から近づく。


「どうだ」


 セトが尋ねる。


「同じところで止まります」


 ネアは目を開けなかった。


「今度は、飛行を外します。循環だけから」

「それでも?」

「同じです」


 次は原光の取り込みだけ。

 次は身体の外に力を置くことだけ。

 どこから辿っても、あるところで先へ進めなくなる。


「単に『翼』って言葉を忘れてるわけじゃないんだな」

「はい」


 ネアが目を開ける。


「知識の入口となる言葉を隠されているだけなら、別の機能から近づけば内容へ届く可能性がありました」

「でも届かない」

「経路が違っても、閉じられている場所そのものは同じようです」


 シアも真似してみた。

 飛ぶ。

 吸う。

 戻す。

 回す。


「やっぱり駄目。何から行っても最後が閉まってる」


 近づき方の問題ではない。

 内容そのものへ境界が置かれている。

 三人の中で、「鍵がかかっている」という表現が比喩以上の重さを持ち始めた。


「シアは感覚で行って、ネアは順番を組んで行った。それでも同じか」

「同じ」

「はい」


 性格も考え方も違う二人が、違う経路から同じ境界へ着く。

 それなら、単なる思い込みや連想の失敗では説明しにくい。


◆ 置き場所が悪い


 シアはしばらく黙り込み、やがて顔をしかめた。


「しかも、置き場所が悪い」

「置き場所?」


 セトが聞き返す。


「頭の中で、箱が置いてある場所」


 ネアが引き継いだ。


「比喩ではありますが、的を射ています」

「知識に場所があるのか」

「物理的な位置ではありません。関連の近さです」


 ある出来事を思い出すと、同じ場所で起きた別の出来事も浮かぶ。

 誰かの顔を思い出すと、その人物と交わした会話が続いて出てくる。

 知識や記憶は、一つずつ完全に離れているわけではない。


「箱へ近づこうとすると、その周囲にあるものも少し引っかかります」


 ネアの声が低くなる。


「その周囲が、よくありません」

「だいたいヤバいものが置いてある辺りにある」


 シアが言った。


「何がある」

「全部は分からない。でも、いくつかなら分かる」

「さっきは分からないって言ってただろ」

「箱を見ようとしすぎてた。周りだけ見るなら、少し違う」


 箱の中身へ触れようとしない。

 その手前で止まり、近くにある既知の知識だけを拾う。

 それなら、完全に閉じられてはいなかった。


「ただし、近いから関係があるとは限りません」


 ネアが先に釘を刺す。


「そこは分けて考えてください」


 箱の近くにあるから危険なのか。

 危険だから近くへ置かれたのか。

 それすらまだ分からない。

 ただ、普通の技術や日常知識が並んでいる場所ではない、という感覚だけは二人に共通していた。


「じゃあ、取れるものだけ一個ずつ見よう」


 セトの提案に、二人は頷いた。


◆ 魔剣の知識


「最初に引っかかるのは……剣だ」


 シアが言った。


「どの剣だ」

「精霊剣。その先。魔剣」


 セトの表情が少し変わる。

 グラウスが使っていた、力を奪って蓄える剣。

 あの事件で知った真相は、人間社会へそのまま公開していない。


「精霊王が人間へ身を預ける。精霊剣になる」

「それは普通に知ってる話だな」

「でも、その姿のまま死んだら、全部が普通に消えるとは限らない」


 シアは言葉を選ぶ。


「意思を失った器だけが残ることがある。それが魔剣になる」


 ネアも静かに頷いた。


「精霊剣の成立条件と、魔剣がどう生まれ得るかは、広く教えるべき知識ではありません」

「悪用できるから?」

「それもあります」


 ネアは少し間を置く。


「それ以上に、精霊王と人間の関係そのものを道具として扱う発想につながります」

「確かにヤバいな」


 セトは短く返した。


「これが箱の中身?」

「違う」


 シアは即答する。


「これは箱の外。普通に取れる知識」

「近くにあるだけです」


 ネアも補足した。


「箱との因果関係は不明です」


 それでも、閉じられた箱のすぐ近くに、精霊王の死後まで剣として利用し得る知識がある。

 シアが「置き場所が悪い」と言った意味が、少し具体的になった。


「知識だけなら、昔から持ってたんだよな」

「うん。でも、箱を意識したら近くにあるって分かった」


 魔剣の知識自体が新しく現れたわけではない。

 以前から知っていたものの「位置関係」を、今になって初めて意識できた。

 それも、箱が何かを新たに教えているわけではない証拠の一つだった。



※第43話「鍵のかかった知識」は全八回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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