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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第43話 鍵のかかった知識

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(二)箱と鍵

◆ 普通の知識


「比較するか」


 セトは質問を変えた。


「シア。火を集める時、何を見る」

「周りの原光。火に変えやすい流れと、すでに火になってるもの」

「精霊剣になるには?」

「相手を信じて、自分から全部預ける」


 返答に間はない。


「ネア。流れを曲げる時は?」

「対象そのものではなく、対象へ入る前後の原光を見ます。直接動かすより、その方が少ない力で済みます」

「精霊王の役割は次代へ残る?」

「残ります。個人の記憶とは別です」


 こちらも即答だった。


「じゃあ四翼」

「……」


 シアが止まる。

 ネアも同時に黙った。


「違いは分かるな」

「うん」


 シアが顔をしかめる。


「普通の知識は、思い出そうとしなくても答えが出る。知ってるから」

「四翼は?」

「知ってるところまでは同じ。でも、その次がない」


 ネアが言葉を継ぐ。


「継承知識全体が欠けているわけではありません。今試した範囲は正常です」

「翼の周りだけか」

「そう見えます」


 忘れたのでもない。

 継承に失敗したのでもない。

 知識そのものは存在すると感じる。

 それなのに、内容だけへ届かない。


「知らないより気持ち悪いな」


 セトが言うと、シアが大きくうなずいた。


「知らないなら、知らないで終わるからな」


 さらにセトは、人間社会の一般知識や分霊核の扱いもいくつか尋ねた。

 二人とも、自分が持つ範囲なら普通に答えられる。

 問いが四翼へ戻った瞬間だけ、同じように言葉が止まる。


 問題は知識を引き出す能力ではない。

 特定の領域だけが、ほかとは違う扱いを受けていた。


◆ 同じ場所で止まる


「二人で答えを合わせてる可能性も消しておく」


 セトはシアへ少し離れるよう言った。

 ネアに聞こえない距離ではない。

 だが、先に答える側を毎回変える。


「四枚であることに意味はあるか」

「ある」


 シアが答える。


「ネア」

「わたしも、あると感じます」

「飛行だけのためか」

「違う」

「違うと思います」


 答えは一致した。


「外から原光を集める機能は?」

「ある」

「あります」

「放った力を戻す?」

「ある」

「あります」

「具体的なやり方は?」

「分からない」

「届きません」


 そこで二人とも止まる。


「火だけの知識じゃないな」


 セトが言った。


「月だけでもありません」


 ネアは自分の胸元へ手を当てる。


「異なる属性のわたしたちが、同じ問いで同じ位置まで進み、同じ位置で止まっています」

「精霊王なら共通で持ってる?」

「可能性はあります。ただし、まだシアとわたししか確認できません」


 リグやフィオラに同じ知識があるかは分からない。

 ここで精霊王全体の仕組みと決めるのは早い。


「でも、私が忘れてるだけって感じじゃなくなった」


 シアが言う。


「はい。個人の記憶の問題とも考えにくいです」


 二人が別々に持つはずの知識の中で、同じ場所だけが閉じている。

 その事実だけが残った。


 しかも、セトは質問の順番を何度か入れ替えた。

 先にネアへ聞いても、先にシアへ聞いても結果は変わらない。

 片方の答えを聞いてから合わせているわけでもなかった。


「二人とも同じ場所に、同じような閉じ方がある」

「そう考えるのが自然です」


 偶然で片づけるには、止まり方まで似すぎていた。


◆ 箱と鍵


「あの翼、知ってる。知ってるけど分からない」


 シアがもう一度言った。


「知識が、鍵のかかった箱に入ってるみたいだ」


 ネアがわずかに目を見開く。


「うまい表現ですね」

「そうか?」

「はい。たしかに、箱のようなものがあります。中に何かが入っていて、鍵がかかって開きません」

「箱があることまで分かるのか」


 セトが尋ねる。


「本物の箱や鍵が見えるわけではありません」


 ネアは断った。


「ですが、自然に思い出せないのではなく、意図的に閉じられている感覚があります」

「誰かが閉じた?」

「そこまでは分かりません」


 シアは目を閉じる。

 四枚。

 飛行。

 外からの取り込み。

 回収。

 循環。


 そこまでは進める。

 だが、その先へ行こうとした瞬間、考えていたものが滑るように遠ざかった。

 掴もうとすればするほど、位置だけ分かるのに内容が薄くなる。


「駄目だ」


 シアが目を開ける。


「箱の前までは行ける。でも開かない」

「鍵穴は?」

「それも分からない」

「開ける道具は?」

「分からない」


 箱という形が見えるわけではない。

 それでも、閉じられているという感覚だけは、普通の分からなさとは明確に違っていた。


「押したら開きそうとかは?」

「ない」


 シアは首を横へ振る。


「壁があるっていうより、開ける権利がない感じ」

「権利?」

「言い方が難しい。そこにあるのは分かるのに、私の考えが中へ入れない」


 鍵という比喩が、さらにしっくりきた。



※第43話「鍵のかかった知識」は全八回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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