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エレメンタルクロス ~精霊の剣~  作者: KEI
第43話 鍵のかかった知識

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(一)知っているのに

◆ 高台の沈黙


 三人は、湖を見下ろす高台からさらに離れた。

 光の精霊王は追ってこない。

 こちらが攻撃をやめると興味を失ったように向きを変え、別の場所へ白い光を放っている。

 湖の岸が焼ける。

 離れた岩場が隆起する。

 新しくできた斜面から水が流れ、先ほどまで乾いていた場所へ小さな池を作った。


 光の精霊王の背では、四枚の翼が開いたままになっている。

 周囲から集まる原光が翼を通り、身体へ流れ込んでいた。

 シアとネアは、その姿を黙って見ている。


「移動するぞ」


 セトが言った。

 光の届きにくい岩陰まで下がり、三人は足を止める。

 シアは二個の赤い分霊核を自分の周囲へ戻した。

 ネアも黒い分霊核を左右へ浮かべたまま、湖の方角を見ている。


「さっきの話だ。あの翼を知っているのか」


 シアはすぐには答えなかった。

 腕を組み、眉を寄せる。


「知ってる。でも、分からない」

「どちらだ」

「どっちも」


 シアは自分の頭を指でたたいた。


「あれが何か、私は知ってるはずなんだ。でも中身が出てこない」

「わたしも同じです」


 ネアも静かにうなずいた。


 四翼を見つけた時から、二人の反応だけが妙だった。

 驚いているのに、初見のものを見た驚きとは少し違う。

 セトには翼の形も機能も完全な未知だったが、二人には最初から「知らない」と言い切れない引っかかりがある。


「まず、それがどこから来てるのか切り分ける」


 セトは湖から距離を取る方へ目を向けた。


◆ 離れても同じ


「光の精霊王が何かしてる可能性は?」


 シアが湖の方角を見る。

 白い人影は、岩山の向こうへ半分隠れていた。


「確かめましょう」


 ネアはさらに後方を指した。

 三人は岩陰を二つ越え、光の精霊王を直接見られない位置まで下がる。

 ここからでは四翼も見えない。


「どうだ」


 セトが尋ねる。

 シアは目を閉じた。

 四枚の翼を思い浮かべる。

 飛行。外からの取り込み。放った力の回収。

 そこから先へ意識を向ける。


「変わらない」

「遠くなった感じは?」

「ない。見えてないのに、さっきと同じところまで行ける」


 ネアも同じように目を閉じる。

 しばらくして、首を横へ振った。


「わたしもです。距離による変化は感じません」

「じゃあ、あいつが今こっちの頭を止めてるわけじゃない?」

「少なくとも、その可能性は下がりました」


 ネアは断定しない。


「光の精霊王が何らかの形で影響している可能性まで否定はできません。ただ、離れても、姿を見なくても、閉じられている感覚は変わりません」

「最初から私たちの中にある?」


 シアが尋ねる。


「その方が自然です」


 光の精霊王を見たことで、新しく何かを入れられたのではない。

 もともと二人の中にあったものへ、四翼を見たことで初めて気づいた。

 今のところ、その可能性が一番高かった。


「もし距離で薄くなるなら、あいつの力を疑えたんだけどな」

「はい。今は逆です」


 離れても消えない。見えなくても辿れる。

 光の精霊王は、閉じられた知識を作った原因ではなく、それに気づかせたきっかけにすぎない可能性が高くなった。


◆ 知っているのに


「ネアも見た記憶はないんだな」


 セトが尋ねる。


「ありません」


 ネアは長く生きている。

 歴代の火の精霊王を何代も見てきたネアが、過去に四翼を目にしていたなら、その記憶があるはずだった。


「少なくとも、わたし自身が経験した記憶ではありません」

「先代の光の精霊王は?」

「四枚の翼を持っていたという記憶もありません」

「シアは?」

「私は見たことないぞ」


 シアが即答する。


「聞いた俺が悪かった」

「でも、先代の知識にも、普通には出てこない」


 シアは少し真面目な顔へ戻った。

 精霊王は、役割に必要な知識を次代へ受け継ぐ。

 シアは先代イフリートの人生を覚えていない。

 誰と会い、何を好み、何を怖がったのかは知らない。

 だが、火の扱い方や精霊王としての役割は、生まれた時から知っていた。


「記憶じゃないなら、継承知識か」

「たぶん。でも普通の知識とも違う」


 シアは四翼を思い浮かべる。


「知ってるって感じだけは、普通の知識と同じなんだ」

「なのに答えがない?」

「答えがないんじゃない。あるのに取れない」


 その違いだけは、シアにもはっきり分かっていた。


 ネアにも同じ感覚がある。

 自身の長い経験として覚えていることではない。

 それでも「存在する知識だ」という認識だけが先にある。

 過去の出来事を思い出せない時の空白とも違い、空白の向こう側に内容があることだけは分かる。


「中身だけ見えない壁みたいなものか」

「近いと思います」



※第43話「鍵のかかった知識」は全八回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/elemental-cross-top/

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